渡邊誠一郎・名古屋大学大学院教授は、科学者が我が事として探査計画に参加するために、探査計画が個々の科学者の専門につながっている必要があるとする(図1)。そうすることで参加する科学者の層は厚くなり、惑星科学という“大きな土台”の上で、小惑星サンプルリターンを考えることが可能になる。その上で、惑星科学の意義は500年続くとする。500年の意味とは?

図1●「はやぶさ2」報道公開時に、プレスに説明を行う渡邊誠一郎教授
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“小惑星の科学”から“小惑星からの惑星科学”へ

――「はやぶさ2」計画に参加する科学者のコミュニティーを広げることを、具体的にどのようにして進めているのでしょうか。

渡邊 2010年ぐらいの段階で、日本惑星科学会では「次に実施すべき計画は、小惑星探査を行うはやぶさ2か、それとも月周回軌道からの探査を行った『かぐや』に続く着陸機の『SELENE-2』か」という議論がありました。それぞれ研究者がワーキンググループに参加して検討を進めていましたが、それぞれ「はやぶさ2をやりたい」「SELENE-2をやりたい」と主張するだけではいつまで経っても平行線です。

――そういう議論があったんですか? それは初めて聴きました。SELENE-2には、アメリカの有人月探査の動向が大きく影響していて、2008年には当時の文科省・宇宙開発委員会でSELENE-2をやるべしというお墨付きまで出たのに、予算化できませんでした。

渡邊 惑星科学のコミュニティーにとって、「はやぶさ」とかぐやは初めての成功といえる探査機でした。当然それぞれの計画に参加してきた方は、その次の計画をやりたいと考えます。でも、この問題を「どちらを実施するか」と捉えると答えはでないんですよ。それぞれやりたい人がいるわけですから。
 そこで学会が考えたのは「たとえどちらをやりたいと思っていたとしても、どちらかををやると決まったならサポートして下さい」ということでした。そうやって学会の総意を結集していかないと、とてもではないけれども探査を成功させることはおぼつかないですから。このことを、議論の共通認識にして、「では、今の時期としてどちらをやるべきか」を議論していきました。その結果として、はやぶさ2をやろうという流れになっていったのです。別に投票をしたとかそういうことではなく、議論を重ねていく中ではやぶさ2をやるべきとなっていったわけです。
 ただしそこには条件が一つありました。「はやぶさ2の科学目標を“小惑星の科学”として実施するのは難しい。あくまで“小惑星からの惑星科学”として位置付ける必要がある」ということです。小惑星を探査することで、「惑星系はどうやってできたのだろうか」「惑星の材料はいったいどこから供給されたのだろうか」という、惑星科学の根幹となる問題に実証的な答えを出す探査計画として考えていこう、ということです。そうすれば「自分は月をやっているから小惑星探査は関係ない」とか「金星が専門だから以下同文」ということではなく、はやぶさ2は惑星科学関係者全員が協力できる計画となります。