最先端のチップ製造における450mmウエハーへの移行は、半導体産業の歴史で最も複雑かつ難しい判断となるでしょう。過去のウエハー大口径化では、業界全体で巨額の投資が発生しました。その代わり、300mmウエハーへの移行では、同時期に登場したさまざまな生産性向上との組み合わせで、ダイあたりのコストという点で膨大な経済的メリットを多くのチップメーカーにもたらしました。

 半導体のコストダウンは、現代のもっとも強力な経済的かつ社会的なトレンドであり、コンピューターやIT(情報技術)だけでなく、エンターテインメント、ヘルスケア、エネルギー、通信など多くの分野に影響を与えています。トランジスタ1個の生産コストを1975年当時と現在とで比較すると、400万分の1にまで下がりました。トランジスタの平均価格が1976年当時のままだと仮定すると、iPodのようにシンプルな音楽プレイヤーの価格は10億米ドル以上、その大きさはビルほどにもなります。

 半導体のコストダウンの多くは、フォトリソグラフィーを使った微細化によってトランジスタのライン幅と形状を継続的に縮小することで実現されました。「ひとつのICに集積されるトランジスタの数は2年ごとに倍増する」というムーアの法則は、主に微細化に基づく予想です。しかし、微細化だけがコストダウンのすべてではありません。このほか、製造の効率化による歩留り改善、スループットの向上、装置の生産性向上、そしてほぼ10年周期で発生するウエハーの大口径化があります。

 ウエハーの面積が拡大すれば、ウエハー1枚あたりのダイの数を増やせます。ウエハー以外のコストを一定とした場合、理論的にはウエハーを450mmへ大口径化することでダイあたりの製造コストは約30%削減できることになります。

 1991年に200mmウエハーの生産が始まり、2001年には300mmウエハーへ移行しました。2005年になると、いくつかのチップメーカーが、ムーアの法則で想定される生産性の向上から、大幅に遅れを取っていると考え始めます。そこで彼らは、トランジスタあたりの製造コストをこれまでと同じベースで削減していくためには、450mmウエハーに移行するしかないと考えるようになりました。