第2回では、インシュリンの開発例などを挙げて、従来の性能改善ばかりにとらわれるのではなく新しい価値を実現する必要があることについてお話ししました。また、それができない原因として「顧客や競合を見すぎて新しい価値に目が向かないこと」「新しい価値に目が向いても、従来の延長線上の考えに陥りがちなこと」などについてお話しました。

 これらを打破するためには「顧客や競合を見るのではなく、自分たちで新しい価値を考える」必要がありますが、その過程において「従来の延長線上にならないように、自分たちが無意識のうちに設定している思考の枠を外すこと」が求められます。第3回では、特にこの思考の枠を外すことに着目して、発想の壁を乗り越える方法について考えていきたいと思います。

思考の枠とは何か?

 人間は、何か物事を考えるときに、自分が知っている情報の中から「考えようとしている対象に関連すると思っている情報」のみを集めてくるという習性があります。iTiDコンサルティング(以下、iTiD)では、このように人間が無意識のうちに関連すると思っている情報の範囲を思考の枠と呼んでいます。

 例えば「新しい自転車のアイデアを考えましょう」と言われたら、今この瞬間に、あなたの頭の中にはどのようなイメージが思い浮かんだでしょうか。恐らく、自転車の映像や過去に自転車で遊んでいた時の映像、もしくは自転車で行った場所の映像などが浮かんだのではないでしょうか。少し発想が豊かな人であれば、乗り物という分類で自動車や飛行機をイメージした人もいるかもしれません。一方で、自転車とは全く関係のないような食事や勉強をしている風景などが思い浮かんだ人は少ないと思います。食事や勉強は皆さんが知っていることですが、自転車を考えるときには、勝手に取捨選別されているわけです。

 このように何かを考えるときに関連するもの/しないものを分別するのは、既存の自転車の改善などを考えるときには有効かもしれません。しかし、新しいアイデアを発想するときには、思考の飛躍の妨げになってしまいます。そのため、このような思考の枠を外す必要があるのです。

図1●思考の枠とは
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