北海道の「コープさっぽろ」は、常に新しいことに取り組む生活協同組合(生協)として有名だ。1998年には業績が悪化。その後、スピードをもって再建を軌道に乗せ、事業を積極展開している。再建劇を現場で指揮し、2007年から理事長として同生協を率いているのが大見英明氏である。

 経営再建を支えた取り組みのカギは、外部の知見を積極的に取り入れるオープンイノベーションの発想だった。これが新しい取り組みへの挑戦をいとわない、現在のコープさっぽろの経営風土につながっている。大見氏は、「新しいニーズを発見するためには、さまざまな分野の人や技術に触れる姿勢が大切だ」と指摘する。この姿勢こそが、ニーズに気付く力を養う最短の経路なのだ。

 一つの企業だけでできることには限界がある。だから、私が理事長を務めるコープさっぽろでは、外部と協力しながら外の知恵をいかに活用するかを経営の大きな柱にしてきた。組織の内部だけで課題を解決しようとすると、どうしても発想が広がらず、スピード感を失ってしまうからである。

 例えば、顧客のニーズが知りたければ、顧客に聞くのが最も早い。新しい事業のアイデアを形にしようと思ったら、その道の第一人者の話に耳を傾けることが近道である。多くの協力者からアイデアを集めれば、身内だけでは思いもよらなかった知恵が出てくる可能性が高まる。協力を得るためには相手に何かを求めるだけではなく、自分たちがオープンなマインドで接することを心がけなければならない。

大見 英明氏。コープさっぽろ 理事長(写真:南 健二)

 この考え方に確信を抱いたのは、1995年のことだ。当時、私は酒類と米のバイヤーを務めていた。この時期、コープさっぽろの業績は下り坂だった。3年後の1998年には事実上の経営破綻に陥る。

 厳しい経営状況の中、酒類のバイヤーとして始めた取り組みは、コープさっぽろにおける商品の販売状況を取引先のメーカーや卸業者につまびらかに開示することだった。ビールや焼酎といったカテゴリーごとに各商品の週間販売量の数字を1カ月分まとめ、資料にして配ったのである。まだパソコンが普及していない時代、紙に印刷して配布する原始的な取り組みだった。

 キッカケは、慶応義塾大学の國領二郎教授の著書『オープン・ネットワーク経営』(日本経済新聞社)を読んだことである。内容は、米国の通信機器メーカーの事業戦略の話だった。ステークホルダーに対して情報を開示することが、外部から多くの知恵を集めることにつながっていくという。分野は違えど、通信業界で起きたイノベーションの形は小売業にも通じると直感した。

 販売状況をオープンにした効果は、ほどなく表れた。年間14億円ほどだった酒類の売り上げが、前年比1.5倍の約21億円に増えたのである。それまで小売とメーカーは1対1で商談することが当たり前だった。メーカー側は、他の競合メーカーの売れ行きは分からない。その状況を変えて多くのメーカーの販売状況を一覧できるようにしたことで、メーカー側からの販売手法に関する提案が急増した。その効果で、売り上げが伸びたのだ。