半導体の技術と業界の今と未来を、さまざまな視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「ファウンドリー主導で決まる半導体業界の未来」である。
今回のSCR大喜利では、さまざまな半導体メーカーが外部ファウンドリーの利用やファウンドリーサービスの提供を始め、そしてファウンドリー専業企業の存在感が大きくなっていく先に、どのような半導体産業の姿があるのか、見通すことを目的としている。今回の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。
微細加工研究所 所長
【質問1の回答】そうなっている。ただし、メモリーとアナログは除く
4年前、当時CEOだったTSMCのMorris Chang氏は、「今後、日本のIDMは、ファブレス化せざるを得ないだろう」「20年後に残っているIDMは、Intel社とSamsung社だけだろう」と予測した(日本経済新聞2010年5月15日)。
Chang氏の予測に対して、筆者はすぐに反論した(Electronic Journal 2010年6月号pp.19-38)。Chang氏の予測は、半導体の微細化が現在と同じパラダイムの下で進行し、世界のパラダイムも不変とした時のみ当てはまるからだ。そのような保証は何一つない。20年の間に破壊的イノベーションが起きて、半導体の微細化やエレクトロニクス機器のパラダイムが根本から変わってしまってもおかしくない。
20年後の未来が予測できないことを示すために、20年前の世界(1990年)を振り返ってみよう(図1)。世界半導体売上高トップ10には、NEC、東芝、日立製作所をはじめ、日本メーカー6社がランクインしていた。Intel社は5位に過ぎず、Samsung社はトップ10にすら入っていなかった。ファブレス・ファウンドリー・モデルも、産声を上げたばかりで、まだその存在感はなかった。
何より、20年間トップ10に社名を連ねている企業は、Intel社、東芝、米Texas Instruments(TI)社の3社しかない。さらに、40年前(1971年)を見ると、その間トップ10を守り続けている企業はTI社のみである。したがって、20年後の予測などは誰にもできはしない。だからChang氏の予測は当てにならないと論じたわけだ。
あれから4年が経過した。改めてChang氏の予測を検証してみよう。日本に対する予測は、ほぼ的中したと言っていい。東芝のNANDフラッシュメモリーやソニーのCMOSセンサーを除けば、SoCについては、ほとんどの半導体メーカーがファブライト化またはファブレス化しているからだ。
しかし、もう一つの予測「20年後に残っているIDMは、Intel社とSamsung社だけ」は、外れた。Samsung社はメモリーではIDMを維持しているが、ファウンドリー部門でランキング3~4位争いをしている。また、パソコンがスマートフォンに駆逐されるパラダイムシフトの直撃を受けたIntel社も、正式にファウンドリーへの参入を発表した。結局、半導体3強が、スマホ用プロセッサーのファウンドリーを主戦場として競合することになったわけである。
この先、2030年にどうなっているかを考えると、メモリーとアナログ以外では、IDMはすべて消滅しているかもしれない。また、売上高ランキングからIntel社の社名が消えている可能性もある。
1987年にTSMCが誕生したとき、関係者の多く、特に日本人は、ファウンドリービジネスなどうまくいくはずがないと批判した。しかし、その批判を覆してファウンドリーは定着した。そしてChang氏の予測をも裏切って、Intel社とSamsung社までもがファウンドリーになりつつある。歴史を俯瞰する限り、メモリーとアナログを除けば、ファブレス・ファウンドリー・モデルは、年々、その存在感を増大させていくといえる。