イラスト:ニシハラダイタロウ
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 「ついで」という言葉がある。漢字で書くと「序で」だ。よく使う言葉だが、どちらかと言うと、あまり良い場面では使わないと感じる人が多いのではなかろうか。

 「序でに来ただけ」、「序での話」、「序ででできるわけはない」などと、その行い自体が、主たる目的ではないと思うからだ。行動の周辺というか、目指す目的の脇(わき)や隣(となり)にあるような感じがするので、相手からは中途半端に見られてしまうのかも知れない。

 また、序でと言うと「真剣ではない」と疑われたり、あるいは「序でなら結構」と断られることもあるようだ。どうも、序でという言葉は軽く見られている。

 私にも思い出がある。それは、ある会社を訪問した時のことだ。できる限り早く自社の工場を見て欲しいと言われ、早めの日程を決めて工場に行った。出迎えてくれた社長に「多喜さんが序でと言われたので、もっと先になると思っておりましたが、こんなに早くお越しいただき、本当にありがとうございます」と言われたのである。こちらは、そんなにお礼を言われるまでのことをしたつもりはないが、どうして社長がそう思ったのかを考えた。

 多分、この社長は私が言った「序での時に参ります」の意味を、「今のところ予定はないが、その内に、そちらの方面に行く用事ができた時、それも時間があれば立ち寄りますよ」と受け取っていたに違いない。だから、序でと聞いて「後回し」にされると考えたのだろう。だから、これだけ早い時期に来たのが意外に思えたのだ。

 そのことが気に掛かり、念のために辞書を引いてみた。「序で」の意味は、順序、次第、あることを行う時に一緒に他のことも利用できる機会とある。なるほど、序でとは物事を進める前向きな意味なのだ。さらに、順序良く計画するとか、機会を併せることで相乗効果を狙うといった、意図的な意味もあることを知った。