若いころ、何が困ったかと言うとニーズが見えないことだった。それは、今でも同じと言えば同じだが、昔と違うのは、今は焦ることがないのである。

 振り返れば、いつも冷や汗ものだった。私の仕事で一番初めに聞かれるのは「どんな新事業を立ち上げればいいのでしょうか」とか、「新商品を作りたいのですが、何を作ればいいのでしょう」と、要するに「顧客は何が欲しいのか」という「ニーズ」を聞かれるのである。

 私は開発コンサルタントだから、それは当たり前で、尋ねる側のクライアントから言えば、それに答えられないコンサルタントは失格だ。だから、若いころ、どうしたらニーズが見えるのか、それこそ必死で考えた。

 あちらに「新事業開発セミナー」、こちらに「新商品開発セミナー」「あなたもできる顧客の心の掴み方」、「○○マーケティング・セミナー」など、もう“わらをもすがる思い”でセミナーのハシゴをしたものだ。

 あるとき、これだけセミナーや勉強会に行っているのに、どうしても納得できない自分に気が付いた。それはマーケティングをしっかりとすれば、顧客のニーズが見えて、ヒット商品間違いなしとうたうセミナーを受講した時のことだ。そのセミナーの先生は、マーケティングからニーズを抽出してヒット商品を開発した成功事例をいくつかあげて、マーケティングの重要性とニーズを見極める方法を解説したのである。

 講義を聴きながら、さぞやこの先生はヒット連発であるに違いない、そう信じ込んだ私は、講義が終わるとすぐに「先生、今日お話された方法でニーズが分かるなら、きっと先生はヒット商品を連発したはず。どうか、その事例をお聞かせください。私も先生のようになりたいのです」と尋ねたのである。

 先生は「いや、私の事例は数多(あまた)あるが、そう簡単には教えられない。今日聴いたことを実践すれば、あなたは間違いなくヒットメーカーになりますよ」と言うばかりで、なかなか事例を教えてはくれない。

 そこで、「でも先生、先生自身の事例を聞かなければ勉強になりません。教えてくれてもいいじゃありませんか」と強く迫ったところ、「君もしつこいね。本当のことを言えば、マーケティングをしっかりやっても、当たる時もあれば当たらない時もある。要するに、やってみないと分からないのだよ。ハハハ」と笑い飛ばしたのだ。