「川口さん、何すか? それ」
「ああ、これ? これね、こないだ量販店を探検していて見つけたんだけどね」
2014年2月某日。旧知の川口盛之助さん注1)と、会社近くのサイゼリヤ注2)で今年の「メガトレンド」注3)について、打ち合わせをしていたときのこと。川口さんのスマホのケースに変なものが付いていることに気がついた。
「そんなもん、売ってるんっすか。初めて見ました」
「もう即買いよ。一期一会っていうじゃない。ここで買うのを見送ったら、もう見掛けることはないと思って」
スマホケースについていたものは、スイッチ。部屋の照明を点けるときに使うアレだった。しかも、二つ。
「ああ。そのスイッチ、何かの機能がついているんですよね。押すとアプリが立ち上がるとか」
「いや、別に」
「え? じゃあ、何のためのスイッチなんすか?」
「カチャカチャするため」
「それだけ?」
「それだけ」
「はぁ」
しまった、何だかへんな空気になってしまったじゃないか。資料に目を落とす川口さんの横顔からは、無念さがにじんでいる。ああ、なんかフォローしなきゃ、でもここでへんにツッコむと、何だか面倒なことになりそうな予感もするぞ。そうだよ、空気とか言ってる場合じゃないんだよ。とっとと打ち合わせを終わらせて仕事にかからないと締め切りに間に合わないし。ここはこのままスルーするのが大人の対応というものだ。
そう決めた。決めたはずだったんだけど、つい聞いてしまった。記者の悪いクセ、っていうか職業病みたいなものである。
「カチャカチャするのって、どんな効果が…」
「知りたい? 高橋さん、知りたいよね」
にやりと笑って川口さんは、とうとうと話し始めた。
「古くから日本には『手慰み』『手遊び』という言い回しがあるでしょ。それはね…」
予想通りに話が長くて面倒な感じだったので要約すると、こうである。