コツコツ力だけではビジネスの仕組みは作れない

 これらの要素力を使ってビジネスの仕組みをうまく組み立てられるかどうかが事業の成否を左右します。ものづくり系の企業の技術力はこの「コツコツ力」に当たりますが、もちろん技術力だけでビジネスが成功するとは限らないのは言うまでもないでしょう。

 「良いものが売れる」というという考え方は一見その通りなのですが、良いものを持っているだけではビジネスは回りません。そもそも良いものとは何なのでしょうか。

 例えば技術力はそれ自体では「良いもの」には間違いないのでしょうが、それをいかにお客が欲しがる「売れるもの」に変えていくかがビジネスでは意味を持ってきます。

 そこで事業力を形作るもう一つの要素である「ビジネスプロデュース力」が重要になるのです。ところが『偽ベートーベン問題に見る「よいものは売れない」論』でも述べた通り、「良いもののミスマッチ状態」が往々にして起こってしまいます。お客の求める「良いもの」と企業が考え、提供する「良いもの」が一致していないということが起こり得るからです。

 つまり「ビジネスプロデュース力」(=戦略力)を基に具体的なビジネスモデルを作り上げても、そこに企業が考えるよいものを基にした「提供価値」と実際にお客が欲しがる「消費者ニーズ」にかい離が生じていると「ビジネスプロデュース力」は小さなものになってしまい、事業力を大きくすることができなくなるのです。

 日本のものづくり系の企業は、従来技術力を背景に高度な機能を持った製品を次々に作ってきました。それが消費者の欲しがる「良いもの」に直結していたからです。過去の日本企業は、技術を極めて他が真似をすることができない機能を競いました。ところが、それが消費者の欲しがるものと一致しなくなるといった現象が電機産業などで起こってきたのです。

 値段的なミスマッチや欲しい機能や性能のミスマッチは、そのときの世の中の変化が密接に影響します。デフレ下では値段がより重要な購買動機になっていました。またものが溢れる時代では、より良い「生活」を演出してくれるデザインや体験型の商品が求められるなど「良いもの」の多様化が起こってきたのです。

 もっと大きな目で世界を眺めると、世の中の変化で消費者の主役も入れ替わってきています。これに起因して売れるものが変わってきます。新興国が消費の主役として躍り出てくると、それまでの先進国の消費者が欲しがる「良いもの」と新興国の消費者の欲しがる「良いもの」は異なってきたのです。

 そこで私はこの「技術力」を「ことづくり」に拡張することを拡張することを提案しており、三宅秀道先生が提唱されている「四つの開発フェーズ」

1.問題開発
2.技術開発
3.環境開発
4.認知開発

のうち、技術開発だけに頼らないビジネスの仕組みを創ることが「ことづくり」にビジネスの仕組みを広げていくことにとって大事なことだと繰り返し述べてきました。