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「半導体ビジネスの分離」は未来の潮流に逆行する

「半導体ビジネスの分離」は未来の潮流に逆行する

微細化終焉後の人間社会を展望する【田口眞男氏】

2014/03/27 07:00
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 専門性や立場の異なる複数の識者が半導体の今と将来を論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「微細化終焉後の人間社会を展望する」である。長年、半導体の進化のドライバーであり続けてきた微細化技術は今、限界に近付きつつあるとされる。もし本当に微細化が止まってしまったら、電子機器の進化、さらには人類社会には何が起こるのか。半導体技術者や、業界の動きを常に追うコンサルタント、研究者など4人に聞いた。

 各回答者には、以下の三つの質問を投げかけた。今回の回答者は、DRAMセルの開発で数々の先駆的な業績を残し、元Spansion Japan代表取締役社長として経営面での視点も持った慶應義塾大学 特任教授の田口眞男氏である。

田口眞男(たぐち まさお)
慶應義塾大学 特任教授
田口眞男(たぐち まさお)
 1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事、特に新型DRAMセルの開発でフィン型のキャパシタ、改良トレンチ型セルの開発など業界で先駆的な役割を果した。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。DDR DRAMのインタフェース標準仕様であるSSTLの推進者であり、命名者でもある。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリ)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授。

【質問1】半導体(主にCPUのようなロジックLSIを想定)の微細化はいつごろ、どのような理由で止まると考えられますか?
【回答】 2020年ころ、配線部分を微細化してもチップ性能が向上しないことが明らかになって止まる

【質問2】微細化が止まったとすると、人々の暮らしや社会基盤にはどのような影響を与えると考えられますか?
【回答】 対価を払えば高速・大容量を享受できるという社会格差がより顕著になる

【質問3】微細化が止まったとすると、コンピュータや電子機器は何を基軸として進化すると考えられますか?
【回答】 「社会心理工学」を機軸に進化する

【質問1の回答】CPUのような大規模ロジックでは配線部分を微細化してもチップ性能が向上しないことが明らかになって止まる。これは2020年ころと推定するが急激に止まるものではないだろう。大規模ロジック以外では局所的な微細化は続き、トランジスタ物理の発展もまだあり得て微細化は原子レベルまでいくだろう。

 微細化は能動デバイスのチャネル部分と電極引き出しを含む配線部分と分けて考える必要がある。チャネル部分ではキャリアの統計学的分布を仮定しない原子レベルのデバイスまで進む可能性があるので当面まだ限界を語るのは早い。問題は電極および電極引引き出し部分を含む配線である。

 CPUやFPGAなどロジックLSIのチップ寸法あるいはパッケージを含めたシステム寸法は微細化で比例的に小さくなることはなく、その効果は内蔵ゲート数の拡大と処理機能(能力)の向上に充てられている。このためロジックLSIは大規模化とともに、(1)微細化に伴う配線容量の三次元効果が強くなり理想スケーリング則から外れて悪い方向に向かうこと(安定電源供給能力と消費電力密度増大の問題)、(2)信号の伝播速度は光の速度の壁は越えられないこと、から究極的に性能が飽和する。

 実際にLSIの配線上の信号伝搬速度は光速の半分前後であり、mm単位の長さではゲートスピードに比肩できるレベル(光でも3mm走行するのに10ps)となる。もちろん電源供給やクロック分配の問題もあり超高速かつ大規模な回路の成立をますます難しくしている。つまり微細化のネックは配線問題にあると言える。

 さらに、(3)単位面積当たりの消費電力は(1)の影響で減少しにくくエネルギー効率が改善しない。これらがほぼ同時に起こることで大規模回路の微細化は止まる。

 通信用など信号の流れが見通せる集積回路、あるいは大規模ではない集積回路では長距離配線があっても伝送線路理論をベースに対策が可能な場合がある。このため通信用途では微細化は能動デバイスの性能向上とともに究極的に進むだろう。

 情報の所在地を物理的に動かす(演算器とメモリーの間など)から電力を消費するので、演算と記憶を同じデバイスで行い、回路もリコンフィギャラブルにする案があり微細化における配線問題解決の一助となるだろう。ただし今度はデバイス(例えばMRAM、古くはJosephson Junction Device)の性能改善進捗度に依存してしまいスケーリングのような見通しの良い道筋ではない。道筋の良さは産業界において将来像を描きやすくし、周辺環境整備を容易にするので重要なことである。またSRAMベースのFPGAを想像すれば分かるがリコンフィギャラブルとは言ってもチップ上の配線が多数張り巡らされるので、最後は配線の微細化問題に帰着してしまう。

 消費電力が集積度向上の妨げであるとの指摘は多い。例えばISSCC 2014のプレナリーセッションでのHorowitz氏による講演(講演番号1.1)は、年々演算能力は高まっているものの演算当たりのエネルギーは増大してしまっていることを示している。図1は筆者が同図をもとに再構成したものである。

図1●年代、性能と消費エネルギーのプロット(Horowitz, ISSCC Digest of Tech. Papers, p13, Feb. 2014, 講演1.1 Fig. 1.1.5を基に著者が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 あくまでもこの図を基にすればだが、規格化パフォーマンス(横軸)と演算当たりの規格化消費エネルギーはほぼ比例関係とも言える。エネルギーの増大なしに性能だけ得るのが難しいと読むことができる。考えてみれば情報はエネルギーと等価でありそれを裏付けたにすぎないかもしれない。結局微細化を進めてもどこかでデバイススピードの改善効果を享受できなくなり、同時に消費エネルギーの観点から限界が見えてくる。ただし実際にはプロセッサーの性能は飛躍的に向上しながら消費電力はむしろ減少気味ですらある。これはアーキテクチャの改善で無駄な電力を節約した効果が大きいためと推定され、本質的な部分では微細化が有効手段でなくなる時期がくる。

 このため微細化以外で性能を向上させる方法、前出のような非ノイマン型マシーンやマーケティング的観点では、PC以外の用途専用プロセッサー(―既にこれは多々あるが)、医療用やその応用による超小型プロセッサーなどで電子産業の継続的繁栄は可能と考える。

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