ドラえもんを読破、印象に残ったのは…

 「ええやん。ドラえもんの四次元ポケットから出てくるひみつ道具って、どんなのがあったっけ?」

 盛り上がって、メンバー全員で頭をひねってみたものの「タケコプター」や「どこでもドア」など五つほどしか挙げることができなかった。「1000話以上あるのに、そんなことないやろ」ということで、単行本を読みあさった。

 ひみつ道具もとても面白かったが、私の印象に残ったのは、むしろドラえもんとのび太のやり取りだった。猫型ロボットのドラえもんは、のび太とタメ口で話している。ロボットなのに、のび太に注意までする。同じロボットの「鉄腕アトム」は、それに比べるとだいぶ忠実である。アトムの受け答えは、極めて現在の家電的な印象だ。

 そして、よく読んでみると、のび太とジャイアンのやり取りと、のび太とドラえもんのやり取りは会話の雰囲気が微妙に異なっているとも感じた。同じ友人同士である。でも、ドラえもんは、一緒に生活している家族でもある。「ママに叱られるよ」「勉強もせずに」など、ジャイアンとは違う会話を交わしている。そのことが印象に残った。

 恐らく、アイデアとは、こうしたさまざまな入力がつながったときに突然湧いてくるものなのだろう。COCOROBOにつながるひらめきが降りてきたのは、ロボット掃除機のことを真剣に考え始めてしばらくした、ある日の早朝4時のことである。

 朝起きてごそごそしていたら、突然思い付いた。ペンを持って頭に浮かんだコンセプトを書き出すと止まらない。1枚のコンセプトシートを書き上げたときに生まれていたのが、ココロを持ったロボット掃除機のイメージである。

 それからしばらくして、事業部で開発や企画の担当者に、思い付いたアイデアを話してみた。2011年7月ころのことである。そのときに室内に流れたのは、空虚な時間だった。しーんとした会議室の中には、「この人、何を言っているの」という雰囲気が漂っていた。「分からないよね」。私もそう思った。そこで、その場で部下に家電のココロについて、絵を描きながら説明した。

事業部長自ら企画書を書き続けた

 もちろん、一度の説明で理解してもらえるわけもない。それから、ほぼ毎日のように少しずつ企画書を書いた。事業部長からひっきりなしに資料が送れられてくる現場の社員はたまったものではなかったかもしれない。とにかく「この説明で分からなかったら、別の角度で説明してみよう」と何度も企画書を書き直した。だから、今でもCOCOROBOや家電のココロについて話すとき、ものすごく楽しく話せる。そのときにさまざまな角度の突っ込みを想定し、部下や上司を笑わせるポイントまで考えて、プレゼン資料を作っていたからである。

 恐らく、当時、事業部長だったからできたことなのかもしれない。もし、副事業部長だったら、上司に「お前、何やってんねん」と言われかねないだろう。正直なところ、企画書を作り直しながら、「何年か早すぎるのかもしれないな…」と思ったこともあった。

 ただ、ちょうど翌年にシャープは創業100周年を迎えるタイミングだった。「この商品を出さなかったら、後悔するだろうな」と感じていた。部下に「分からない」と言われたら、「それは正直な意見や」ともすごく思った。絶対に、そこで製品化したいという思いで、企画書を何枚も書いた。