「アジア均一化時代」の幕開け

 このギャップが狭まる様子を別の観点から指摘する声もある。日本やアジアを中心とした若者の消費動向の変化を予測したレポート『若者研究 2014-2018』(日経BP社、2013年12月)の著者で、若者研究を手掛ける博報堂ブランドデザイン若者研究所 リーダーの原田曜平氏は、同レポートでこう記している。「これからは『アジア均一化時代』。既に日本人向け商品を海外で売る時代でも、各国向け商品を開発する時代でもなくなりつつありますし、今後、この傾向はさらに加速していくでしょう」。

 原田氏は、日本をはじめ東アジアやASEAN(東南アジア諸国連合)の若者に現地で実際に会って対話し、生の声を集めるエスノグラフィー調査を手掛けている。その取り組みでは、もともとエリア的に近く、価値観のベースが似ているアジア各国の若者はこれまで以上に共通項を持ち始めていることが分かるという。

 「スターバックスに行って『スマートフォン』を手に『Facebook』などのSNSを利用する若者たちは、アジア各国どこにでもいます。<中略>多くの日本企業から注目を浴びている東南アジアは、平均年齢が20代の国ばかり。東南アジアでマーケティングをするということは、若者たちにモノやサービスを売ることと同義なのです」(同レポートから)。

 これまで多くの日本企業が手掛けていた、日本人向けに開発した商品を海外に売ることや、現地ニーズに合わせて多少改良する「後付けの各国対応」などは意味をなさなくなる可能性があると、原田氏は分析している。各国で生活する若者の価値観やライフスタイルの共通項を抽出し、共通に通じる商品を開発することが大切だと説く。

 つまり、日本の若者向けに開発した商品がアジアに広がる流れだけではなく、その逆にアジアの若者向けに開発した商品が日本に逆流してくることが同時多発的に起きていくということだろう。アジアや中東を中心に短期間で一気に世界の若者のコミュニケーション・インフラになった、日本発の無料メッセージング・サービス「LINE」は、その象徴的な例と言えそうだ。

 もちろん、新興国向けの商品やサービスが、すべて世界を席巻するというものではない。ゴビンダラジャン教授も前出の著書で「新興国市場で、新興国市場向けに開発されたイノベーションの話は増えてきているが、そのイノベーションが富裕国の大衆市場に還流した例は、相対的に少ない」と記している。ただ、リバース・イノベーションは、無視できないほどに存在感を増している。「グローバル企業はリバース・イノベーションとグローカリゼーションを同時に実行することを学ばなければならない」(『リバース・イノベーション』から)。

 いかにリバース・イノベーションを具現化するか。そこで大切なのは、単に「古い技術を用いた安い商品を提供する」ということではない。「ニーズの高い商品を先端技術で安価にする」「シンプルな技術ながら、アイデアにあふれた商品を開発する」といった発想の転換が必要だ。実は、かなりハードルが高い挑戦分野である。ゴビンダラジャン教授は、技術や製品の革新だけではなく、新しいビジネスモデルや新しい協力関係、バリューチェーンの再構築を含めた取り組みの需要性を提示している。

 コペルニクの中村氏は「コペルニクが扱うテクノロジーは、技術的には極めてシンプル。でも、実際にそれを見た人は、その創造性がもたらす付加価値に感心する。そこにアイデアのタネがある」と話す。貧困という究極の制約条件の中で生まれる従来にないアイデア。それが世界を席巻する時代の到来は近いのかもしれない。