専門性や立場の異なる複数の識者が半導体の今と将来を論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「米Applied Materials社(AMAT)と東京エレクトロン(TEL)の経営統合を読み解く」である。半導体製造装置業界の大手2社の経営統合の背景には何があるのか、そして業界にもたらすインパクトとは。半導体業界の動きを常に追う5人のアナリスト、コンサルタントに聞いた。

 各回答者には、以下の三つの質問を投げかけた。今回の回答者は、産業創成アドバイザリー 代表取締役の佐藤文昭氏である。

佐藤文昭(さとう ふみあき)
産業創成アドバイザリー 代表取締役
佐藤文昭(さとう ふみあき)
 日本ビクターで7年間にわたりビデオの研究開発に携わる。その後、証券アナリストに転じ、1998年から9年間、ドイツ証券で調査本部長兼電機全般および半導体アナリストとして業界や企業分析を担当。その間、1999年にITバブル崩壊を予想し、2000年から6年間連続で日本経済新聞の総合アナリスト・ランキング1位。2009年に産業創成アドバイザリーを設立し、テクノロジー・メディア・通信(TMT)産業にフォーカスしたM&Aや資本調達に関するアドバイザリー業務に従事している。

【質問1】2社の経営統合の背景にあるのは、半導体業界のどのような構造変化でしょうか?
【回答】 成長の限界

【質問2】2社の経営統合は半導体業界にどのような動きをもたらす契機となるでしょうか?
【回答】 業界再編の加速と中国企業台頭か

【質問3】半導体の技術進化(微細化/3次元化/大口径化など..)にはどのような影響を与えるでしょうか?
【回答】 メリットとデメリットの両面あり

【質問1の回答】成長の限界

 ムーアの法則が崩れてきている中で、微細化による世代交代が長期化する傾向がでてきた。さらに周知の通り、10数年前までは新規設備投資する半導体メーカーが20社以上あったが、今では片手で数えられるほどしかない。このため、全体の設備投資金額は増えなくなり、半導体出荷金額に対する投資額の比率は低下傾向にある。

 TELやAMATをはじめとする装置メーカーの売上高が伸びなくなる中で、研究開発投資は微細化のみならず450mm対応も必須のため、売上高研究開発比率はますます増加傾向にあり、利益率低下につながっていた。収益性を改善するために、2社の経営統合は研究開発を効率化し、さらにデバイスメーカーとのパワーバランスを高める効果を狙っていよう。

 M&Aに決して積極的でない日本企業が思い切った決断に迫られたのは、日本のデバイスメーカーの弱体化により、日本では先端の研究開発がなされなくなったことも背景にあろう。もちろん、東社長がいたからこそなしえた英断でもあるだろう。