―― なるほど。民間のロケット開発では、世界的にいかにコストを抑えて、安く打ち上げるかを工夫する方向にあるということですね。でも、堀江さんのチームのようにスマホ向けのジャイロセンサーを使って宇宙に行こうという発想はすごいですよね。

堀江 いや、すごくないですよ、当たり前の発想だと思います。

―― でも、他にやろうとしている人はいないんじゃないですか。

堀江 スマホ向けのセンサーを使おうというロケットはないかもしれません。僕らは自分たちがやっていることが、(ブロードバンド接続サービスの)ADSL技術のような位置付けのものだと思っているんです。

 ADSLサービスが普及したことによって、インターネットはコモディティー化しました。でも、ADSL技術は当初、あまり注目されていなかったですよね。

堀江氏の開発グループ「なつのロケット団」(SNS株式会社)は、2013年12月31日と2014年元日の2回、成層圏まで到達する気球にリアルタイム映像伝送装置を搭載し、高度30kmから日の出を撮影する実験を実施し、2014年の「初日の出」をインターネットでライブ中継した。数十kmの映像無線伝送や200km以上のテレメトリデータ伝送、GPS位置情報によって自動で追尾するパラボラアンテナの開発など、宇宙に到達するロケットに必要な技術を実証できたという。映像は、その実験の様子。

―― 確かに。

堀江 当時は、技術者でもADSLによるブロードバンドの実現を信じていなかったところがあったと思います。それが、プロセッサーの処理能力が高くなったり、さまざまな環境の変化があってADSLサービスが実現し、普及していったわけです。

 SpaceXが最初にロケットの打ち上げに成功したのは2007年です。この会社は最近、静止軌道への衛星打ち上げに成功しました。その間、わずか6年ですよ。

 業界の多くの人が「静止軌道への打ち上げは難しいだろう」と見ていたので、大きな衝撃だったと思いますよ。でも、SpaceXは結構余裕で実現してしまった。しかも2回連続で成功しました。このロケットが本格的に商用ベースに乗ったら、恐らく、国のプロジェクトで開発している世界中のロケットは商売上がったりですよ。

―― 商売上がったり?

堀江 だって、SpaceXは半額以下のコストで打ち上げてしまうんだから。従来のロケットの価格競争力はなくなるわけです。しかも、きちんと打ち上げに掛かる価格も提示しています。今後、打ち上げの依頼が殺到して、さらにロケットの性能が上がって、という循環に入りますよね。

 最近、ロシアもロケット技術の改良スピードを上げています。これまでは競争がなかったので、ほとんど改良していなかったけれど、電子回路系を改善して、宇宙船がISS(国際宇宙ステーション)にドッキングするときに掛かる時間を大幅に短縮したり、新しいロケットを開発したりしています。

 これもSpaceXの動向を見てのことだと思いますよ。SpaceXが低コストで性能がいいロケットを上げてくることは分かっているから。やはり競争環境がないと、技術開発には本腰を入れないということでしょう。