かかりつけ医制度

 この連載の最初に、今後の医療政策課題の大きなものの1つとして、かかりつけ医(制度)をどうするのかといったものを挙げた。今回から何回かに分けてこの問題を取り上げたい。

 かかりつけ医の制度化は北欧が早い。そこで、この問題を考えるにあたり、最初にデンマークの様子を見てみよう。

 デンマークは対GDP比の医療費は、2007年のOECDヘルスデータで9.7%、平均在院日数3.5日である。医療費の増加のスピードが他の欧州諸国に比べると早くない。

 政府の一般病院は55、1万5000べッドである。人口は日本の約22分の1であるから、いかに病院が少ないかが分かる。最近約20年でおよそ4分の1に減少したという。

 デンマークの平均寿命は、必ずしも高くない。例えば、2006年の平均寿命を国別に紹介すると、ドイツの女性が82.4歳、男性が77.2歳、スペインが84.4歳と77.7歳、フランスが84.4歳と77.3歳、日本が85.8歳と79.0歳なのに対し、デンマークは80.7歳と76.1歳だ(OECD/IRDES 2008年)。

 この理由は、保健省でのヒアリングによれば、まず喫煙が挙げられる。実際に、先進国では珍しいほど街のあちこちでたばこのにおいがした。さらに食生活である。食事には塩分が強く野菜が少ない。後述するように糖尿病対策、肥満対策が重要視されている。さらには運動不足があるという。運動は一部の人には生活の中に非常に熱心に取り入れられているが、多くの人は運動不足である。

 このような公衆衛生の問題が寿命の短さにつながっているというのが見解で、医療制度はあまり関係ないのではということであった。

 また、北欧諸国はかつて自殺率が高いといわれた。しかし、デンマークでの自殺率は年々減少している。これはスエーデンでも同様の傾向にある。

デンマークのかかりつけ医制度

 デンマークでも税で医療をファイナンスしている国の特徴であるゲートキーパー(登録制、ここを通じないと専門医療を受診できない)として、かかりつけ医制度を持っている。

 ここでいう専門医療は病院だけでなく、眼科や耳鼻科のような専門的な医療すべてを指す。

 さて、このように見てくると、スエーデンや英国と同様のかかりつけ医制度に思えるかもしれない。しかし、収入に特徴があり出来高払いによる収入が73%を占める。人数あたりでの登録制からの収入は少ない。登録患者数も、地方であっても、例えば英国に比べると1500から1600人と比較的少ない。

 出来高の部分は、英国のようなP4P(pay for performance:たとえば糖尿病のコントロールがいい患者数が多いとボーナスがもらえるなど成果報酬のこと)は議論されているというがまだ導入されていない。検査などの収入は、例えば糖尿病の場合、

一般的な相談:129Dkr(デンマーククローネ、日本円で約1800円、2011年9月25日のレート)
糖尿病予防のコンサルテーション:265Dkr
糖尿病診察:30Dkr
糖尿病の検査:299Dkr
1年ごとの糖尿病のモニター:353Dkr

という診療報酬設定になっている。

 このような状況なので、かかりつけ医は比較的高収入で1万Dkr(経費支払い後の年収税引き前で1400万円)ということである。

 またかかりつけ医を通じないと専門医療を受診できないことは、こういった制度の国ではどこも同じであるが、眼科や耳鼻科においてはかかりつけ医を通さなくても受診が可能(公的にファイナンスされる)なようで、柔軟に運用されている。

 北欧の国であるデンマークは、かかりつけ医制度を厳格に運用している、しかし、だからと言って医師の裁量権がないわけではなく、支払いにおいては出来高払いが併用されている点に特徴がある。