――人の行動を検知するツールとしては、カメラもあります。

 カメラは、離れた場所から人の行動に関する情報を取れる、という特徴があります。また、顔の表情のように細かい情報も読み取れます。ただし、用途に制約があります。まず、光センサーを使っているため、光の少ない暗い環境では情報を取れません。また、トイレや寝室といったプライベート性の高い場所にカメラを設置することが受け入れられるか。ソーシャルアクセプタンスの問題があります。

――声で入力する音声認識、空間で手などを動かすジェスチャー操作、視線の向きを利用する視線入力などの“タッチレス技術”の提案が相次いでいます。「タッチの次はタッチレス」という見方もありますが、稲見さんはタッチレス技術をどのように位置づけていますか。

 これらの方式には、タッチパネルとは全く違うところがあります。それぞれの方式に特有の“限界”があるため、複数の方式を組み合わせる必要があることです。

 音声認識を利用したカーナビ操作を例にして、説明しましょう。音声認識では言葉を使って入力しますが、例えば「(地図の)ここら辺に行きたい」というような曖昧な指示には対応できません。同じように、「Put that there(あれをここに置いといて)」というような漠然とした言葉の指示には対応できないのです。従って、ジェスチャー操作や視線入力と組み合わせて、情報を補うことが重要になります。

 ジェスチャー操作では、ある程度複雑な操作をしようとすると、空間位置に関する情報を補う必要が出てきます。例えば、自動車のステアリング操作です。ステアリングという物体を用いることで、位置情報を補っています。運転者はステアリングという物体を握って回すから、右折や左折、車線変更に必要な回転角を直感的に認識でき、スムーズに運転できるのです。空中に手を置いて操作するのとは全く違います。ステアリングは、パッシブなインターフェースということができます。なお、人と機械の関係という視点でいえば、ステアリングには「運転者の手を支える」という役割もあります。ステアリングのおかげで、運転者は疲れずに済んでいます。

――現在の、人が機械を操作するために使うタッチパネルについて、一つ質問があります。タッチパネルでは、操作するためにディスプレーを見続けなければなりません。この問題を解決する策はあるのでしょうか。

 仰るとおり、タッチパネルの入力では原理的にブラインドタッチが難しく、ユーザーの視野も狭めてしまいます。タッチパネルの特徴は、ディスプレーを利用してボタンサイズなどのユーザーインターフェイスを自由に変えられることですが、その一方で入力する場所を見続けなくてはなりません。

 しかし、改善は可能だと考えています。例えば、ディスプレーに触れたときに振動を与えたりする、触覚フィードバックの技術が既に提案されています。また、パッシブな工夫による対策も考えられます。例えばキーボードには、人差し指で入力するFとJのキーに出っ張りが付いています。これによって、他の様々なキーの場所も推測できるようになっています。こうした小さな手がかりが大きな効果を発揮するのです。例えば、スマートフォンやタブレット端末のディスプレーの中央部に接着剤で突起を作るだけで、どの辺りを触っているのかが少し分かるようになります。何も手がかりがないのとは全く違います。