スマートフォンやタブレット端末向けのCPUで高い市場シェアとデファクトスタンダードを握るQualcommは自動車向けCPUの開発プラットフォームを自動車メーカーに提供することを明らかにしました。日本の半導体メーカーは自動車メーカーの細かい要求に応じた特注品を作るケースが多かったようですが、クアルコムは車載に対して日本の半導体メーカーとは全く異なるアプローチを取るのではないでしょうか。

  Qualcommが狙っているのはスマートフォンと同様に、車載に対してもできるだけ同じハードウエア(CPU)を多くの顧客に使ってもらうという戦略ではないでしょうか。ただし、顧客である自動車メーカーが自社の特徴を出せるよう、顧客が独自のアプリケーションを開発できるように、Qualcommは便利な開発環境を提供するのではないか。そして自然と自動車メーカーがQualcommのCPUを使わざるを得ないように誘導する戦略ではないかと思います。これは、彼らが携帯端末市場でやってきたことです。

 こういったGoogle、Apple、Qualcommなどの囲い込み戦略を自動車メーカーは熟知しているでしょうから、自動車メーカーはどうするのか。自動車メーカーは自社ですべてのIT・半導体を開発できないけれども、ITや半導体の巨大企業にプラットフォームを牛耳られるのは嫌うでしょう。

 将来像は全くわかりませんが、こうして自動車、IT、半導体と、異なる産業が協力と競争をしながら自動運転などの新しい社会インフラを作り上げていくことになるでしょう。プラットフォームを握る海千山千の企業の間での、業界を超えた攻防が始まっているのです。

 異業種の連携が重要になるのは自動運転だけではありません。医療、農業、流通、交通、電力網など、Internet of Things、IoT(モノのインターネット)、M2M(機器間)通信と呼ばれるように今後は、社会の至る所にセンサーが張り巡らされ、人間だけでなく、機器同士、機器と人間の間で様々なデータがやり取りされるようになります。

 そういった「モノのインターネット」、ビッグデータのアプリケーションでは、自動運転の例のように、今まで関連が比較的低かった様々な産業の連携が必要になります。しかし、バリューチェーンの構成も、分野間のルール作り、基盤となるITや半導体の規格化もこれからです。

 パソコンやスマートフォンのプラットフォームの構築、規格化では日本企業は米国企業に後れを取ることが多かった。これから展開される「モノのインターネット」では協力も競争もこれからです。様々な業種の間で協力しながらも、「成功の果実」を獲得する仕組みを構築できるよう、企業だけでなく大学も頑張っていきたいと思っています。