このように、様々な分野で半導体の重要性が増していますし、好調な日本の半導体メーカーもある一方、なぜ日本の半導体メーカーの多くが苦しんでいるのか。また、同じ日本企業でありながら、なぜ多くの半導体メーカーの経営状態は苦しく、自動車や機械産業は好調なのか。

 先日、車向けの電子部品で好調を維持するメーカーに、社内向け研修の講師として呼んで頂く機会がありました。そこでは、中堅社員の方々と半導体やエレクトロニクス業界と自動車業界の現状と今後について、密な議論をさせて頂きました。

 半導体やITのように技術の変化が激しく、経営判断から現場までスピードが重視される業界と、自動車のように品質や安全性が重視される業界を比較するのはフェアではないかもしれません。ただ、議論をする中で伺った、

「私どもの企業は博士も少ないですし、技術者は半導体メーカーの技術者ほど技術一辺倒ではないのです」

という言葉には、今後の半導体産業を考える上で、重要なポイントがある気がしました。苦境に陥る半導体メーカーは日本企業だけではありません。例えば、一時は携帯電話向けのCPUで大きな市場シェアを持っていたTIはスマートフォンへの転換に遅れ、市場シェアを急減させています。

 しかし、日本の半導体メーカーやTIの技術力が急に落ちたわけではありません。どこの国の企業であっても、技術だけを高めればビジネスで成功することができるわけではなくなっているのではないでしょうか。更に、研究開発から市場投入までのリード時間が年々短くなり、研究所で開発した技術が、最終的な製品の競争力や、ビジネスモデルさえも決めてしまうようになっているのです。

 日本企業もこうした変化をわかっているでしょう。以前のように、研究所の研究者が実用化を考えずに基礎的な研究に打ち込める、ということは現在では稀でしょう。ただ、実用的な研究をするだけでは不十分。

 もう一歩進んで、技術開発の源流に居る技術者が、技術を開発するだけでなく、新技術によって新しい市場やサービスを創造する。そのためのビジネスモデルも技術開発と同時に考えることが、必要になっているのではないでしょうか。

 変わらなければならないのは、企業だけでなく、大学も同じです。さきほどの、「博士も少ないですし」という言葉は、大学教員である私の胸にグサッと突き刺さりました。ある分野の専門性を極めなければ博士の学位を取得することはできません。日本のメーカーの技術を支えるような専門家を育成することが日本の大学の役割だったわけですが、それだけで良いのか。

 専門を極めようとするあまり、視野が狭くなり、却って事業のことまで考えられなくなっているとしたら逆効果である、という厳しい指摘を受けたように私は感じました。企業だけでなく、大学のあり方も変わらざるを得ないでしょう。

 かつては、「##ナノメートル技術を開発し、**ギガビットのメモリを市場に投入する」と社長が経営方針を語る時代もありました。これは技術至上主義の典型的な例ですが、経営者はもちろんのこと、技術者であっても技術だけを考えるだけでは不十分。

 こうして、企業の技術者、研究者が応用製品やビジネスモデルまで考えなければならないとすると、基礎的な研究は大学にアウトソースしたり、大学と共同で研究することも必要になるでしょう。

 技術開発から製品化までの時間が短くなり、GoogleやAppleのような企業がサービスから逆算して上流から下流まで様々な技術開発を手掛ける時代には、技術者のあり方も企業や大学での研究の仕方も変わらざるを得ないのではないでしょうか。