3D情報を現場に流し設計意図を確実に伝える

 このように現場で成功体験を積み重ねながら、同社は図面ベースだった工程を3Dモデルベースへと変えてきた。その顕著な効果が、設計と現場との意思疎通がスムーズになったことである。この定量効果の一端を図8に示す。かつては現場から設計への問い合わせ件数は非常に多かったが、XVLの普及に伴い、年間4647回から1265回へと激減している。3D情報を現場に流すことで、その設計意図がしっかり伝わるようになったのである。以前の膨大なやりとりで失われていた時間、誤解から発生していた手戻りなどを考慮すると、これが納期短縮や品質向上に大きな貢献をしたことは間違いない。

図8●XVL導入の効果
図8●XVL導入の効果
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 そもそも、同社では「超短納期」を競争力の源泉とするという大方針の下、2002年に生産性を従来の10倍にせよという目標が設定された。これを実現するため、設計の自動化から加工時間の半減、加工精度の向上、調整を不要にするといったあらゆる方策に1つ1つ挑戦していったのである。この根本にあるのが、フロント・ローディングの考え方だ。上流の設計部門が3Dモデルにあらゆる情報を入れ、XVLに自動変換する。そして、これを各種情報と統合してデータベースに置くことで、組織全体で情報共有を進めようという取り組みであった。

 もちろん3D設計は設計者の負担を大きく増やす。だからこそ、同社ではトップダウンで3D設計を推進した。そして、その大きな負担によって作成した3Dデータを徹底活用することで、それを大きく上回るリターンを手にしたのだ。全社での一貫した3D活用により、いまや同社は生産性10倍のゴールへ近づきつつある。

 同社で3D活用を推進する荒井氏はこう言う。「XVLにはものづくり屋への思いの近さを感じます。3人寄れば文殊の知恵と言いますが、3人で同じ3Dの金型を見ながら議論をしていく、その共通言語としてXVLがあるわけです」。XVLという共通言語を使いながら、それぞれの持ち場の人が自由に発想する。この現場の発想力こそが同社の競争力の源泉なのだ。