2000年までは内需の伸びが電子産業を牽引

 貿易黒字の減少は1985年に始まる。しかし国内生産が同時に減少を始めたわけではない。1985年から2000年までの15年間は、凹凸はあるものの国内生産はかなり伸びた。2000年の生産金額は26兆円を超え、過去最高を記録している。

 もう一度、図2を詳しく見てみよう。

 1985年以前は生産・輸出・貿易黒字が並行して伸びている。輸入はとるに足らない。輸出や生産に比べると内需(=生産+輸入-輸出)の伸びは鈍い。1970~1985年の15年間の伸びは、生産5倍、輸出11倍、内需3倍である。つまりこの時期、1985年以前は、日本の電子産業は輸出主導で成長していた。

 1985年を過ぎると、輸出の伸びが鈍る。輸入が着実に増え始める。結果として貿易黒字が減少傾向となる。1985年から2000年までは、生産も伸びているが、内需の伸びは、いっそう著しい。1985~2000年の15年間の伸びは、生産と輸出が1.5倍だったの対し、内需は2倍である。この間、日本の電子産業は内需主導で成長した。

 1985年以後の内需主導の成長は、貿易摩擦対策の観点からも好ましかった。1980年代、日本の電子産業は貿易摩擦に苦しんでいたからである。

 1985年から2000年まで、日本経済全体はバブルの熱狂から崩壊、その後の長い低迷と、いわば異常事態となる。ところが電子産業は同じ期間に、輸出主導から内需主導へ、ある意味、健全な構造転換を進めたとみることができよう。この間、国内生産は、それなりに伸びていた。もちろん1970~1985年に比べれば伸び率は低下している。1970~1985年の15年間に日本の電子産業国内生産は5倍に成長した。しかし1985~2000年の15年間の伸びは1.5倍である。

生産は21世紀に入ってから10年で半減

 問題は21世紀に入ってからである。電子産業の国内生産は激しく落ち込む。2005年前後には少し持ち直すが、その後さらに減少、2012年には12兆円と、ピークの26兆円の半分以下となる。国内で生産するという観点からは、日本の電子産業は急激に凋落した。

 日本経済全体はバブル崩壊後、1990年代初頭からの低迷が続く。GDP(国内総生産)で言えば、それは「ほとんど伸びない」という形である。しかし電子産業は、21世紀に入ってから急速に落ち込む。それは「10年で半減」というペースだった。

 輸出と輸入の動きは、生産とは違う。輸出は2000年を超えて伸び続ける。この輸出の伸びを支えたのは、電子部品の輸出である。部品の輸出が本格的に減り始めるのは2008年以後だ。これは米投資銀行のLehman Brothers Holdings社の破綻を引き金にした金融危機、いわゆる「リーマン・ショック」後の不況に対応していると考えられる。

図3 1985年以後の日本の電子部品(電子デバイスを含む)の動向
資料:経済産業省機械統計,財務省貿易統計
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 実は完成品(電子機器の最終製品)の輸出は、民生用が1985年から、産業用は1990年から、既に減少が始まっていた。完成品の貿易収支は、民生用も産業用も、既に赤字を経験している。日本の電子産業貿易が辛うじて黒字を維持しているのは、電子部品の輸出が伸びてきたおかげである。

 図3は電子部品の、1985年以後の動向を表す。2007年までは輸出が伸び続ける。2007年の輸出金額11兆円は、電子部品輸出の最高記録だ。

 問題は2008年以後である。きっかけはリーマン・ショックだったかもしれない。しかしその後、何年にもわたって電子部品の生産、輸出、輸入、貿易収支のすべてが縮小している(図3)。電子産業全体も同じ傾向だ(図2)。