工程情報+形状情報=指示書

 図2に従来の作業指示書作成フローと新たなフローを比較する。従来は、設計部門が3D‒CADで設計した後、2Dの組立図を作成していた。その図面を利用して、生産技術部門が組立工法管理表と作業指示書を作成し、現場は配布された作業指示書を基に作業を行っていた。

図2●工程設計から作業指示書作成までの業務フロー
図2●工程設計から作業指示書作成までの業務フロー
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 新フローでは、工程DBによって、設計と生産技術、製造部門が情報を早期に共有できる。すなわち、設計直後の3D情報を基にXVLStudioで組立工程を定義し、その工程情報を工程DB に格納する。この工程情報とXVL内の形状情報を利用すれば、Webで配信可能な作業指示書を作成できる。この作業指示書にはXVLPlayerが組み込まれているため3D表示も可能で、現場でも見やすい。工程DBから製造に必要な全ての情報をM-BOM(製造部品表)として取り出して、活用することもできる。

 設計変更にも柔軟に対応可能にした。設計変更後の新たな形状情報を持ったXVLと、既存の工程情報を持ったXVLとから、既存の工程に新しい形状を対応付けた新たなXVLをXVLStudioで生成する。さらに、XVLStudio内で設計構成と工程の整合を保ちながら工程を修正し、その結果を工程DBに格納する。これによって、最新の設計変更を反映した正しい工程情報を関連部門間で共有可能になり、製造現場はこの工程情報に基づいたWeb上の作業指示書を閲覧できる。

 バリエーションの扱いも、工程DBによって進歩を得られる見込みが立っている。農機具には、例えばトラクターならばキャビンの有無からはじまって、極めて多数のバリエーションがある。これはユーザーニーズに細やかに対応する必要のある業界ならば共通の現象だろうが、特定のバリエーションをどう組み上げていくかを考えてみると、工程が共通で変化しない部分と、部品の増減などによって変化する部分がある。工程DB内では、不変部は工程フローとして、変化する部分は作業モジュールとして格納すれば、バリエーションを表現できる。個別のバリエーションに対応する形状と工程情報を含んだXVLは、工程DB内の情報を基に構築できる。

 同社は現在、このような発想でシステムのさらなる改善を進めており、近々運用可能になる予定である。目指す世界は、バリエーションが多数あっても工程はなるべく共通化して、少ない手間で個別バリエーション用の組立工程を定義しようというものだ。

 工程情報を含んだXVLから作業指示書を作成するのはそれほど難しくはない。このシステムのアウトプットであるWeb上の作業指示書を図3に示す。この作業指示書には製造に必要な作業内容と部品情報、管理情報、形状や図面情報が全て含まれている。従来の現場での使い方も考慮して運用を始めたので、現場にも比較的スムーズに受け入れられていった。

図3●Web上の作業指示サンプル
図3●Web上の作業指示サンプル
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 同社でシステム構築を推進した事業本部開発管理グループの河本雅史氏は、多忙な現場での運用成功の要因をこう語る。「製造現場の人にはとにかく時間がないのです。誰しも変化よりも安定を好みます。理想像があっても、その実現に時間がかかるなら、現状のままでよいのです。作業指示書を現場の人に見てもらって彼らの意見を聞き、その真意を読み解く。それを即座にシステム化して、また現場で評価してもらう。このサイクルを細かく繰り返したのです。現場に密着したヒヤリングと、現場の期待を裏切らないような柔軟かつ迅速な対応がキーでした」。