成熟とともに「組み合わせ型」へ

 とはいえ、顧客の多様な要望に応える取り組みと、コスト低減は、一見すると相容れません。これらを両立させるには、標準化の考え方を軸にした組み合わせ型の製品戦略に転換する必要が出てきます。

 組み合わせ型の製品戦略とは、「多様な顧客の要望の中から共通する機能を共通基盤として抽出し、それを補完する部品群との組み合わせによって製品を設計する」というアプローチです。コンセプトの統一性を損なうことなく、部品の組み合わせによって顧客の要望に応えるには、事前にデザイン(設計)ルールをきっちりと決めておく必要があります。これは、部品間の緊密な相互依存の中で微調整しながら製品を作り上げていくという統合型の設計思想(すり合わせ)とは異なります。市場の成長と拡大につれて、顧客の多様な要望に迅速に対応できることが重要になり、組み合わせ型の製品戦略の合理性が高まるのです。

 ソニーのウォークマンは、このように市場の成長に合わせて製品戦略を転換することによって、前述の通り10年以上にわたり世界市場で約50%のシェアを占めることができました。表1は、1989~1990年における携帯型音楽プレーヤーの企業別シェアです1)。初代ウォークマンが発売された1979年から10年が経過し、ソニー以外にも多くの企業がこの市場に参入しています。しかし、日米両方の市場で50%近いシェアをソニーは占めていることが分かります。筆者の知る限り、競争の激しいこの業界で10年以上にわたりこれほどの成功を収めた製品はこれまでありません。

表1●携帯型音楽プレーヤーの市場シェア(Sanderson and Uzumeri[1995]を基に作成、当時の社名で表記)