人件費をはじめとするコストの高騰や政治的リスクを避けるために製造拠点を中国以外にも設けるいわゆる「チャイナ・プラス・ワン」の動きは、2012年に中国全土で発生した反日デモ以降、完全に定着した感がある。こうした中、EMS(電子機器受託生産サービス)世界最大手の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕が2013年10月21日、中国に設ける新たな生産拠点の起工式を行った。

 場所は内陸部の貴州省。最低賃金が1030元(1元=約16円)と全国最低であることから、台湾の日刊紙『旺報』は2013年10月14日付記事でフォックスコンの貴州進出を、「最も安い人件費を求めてさまようエレクトロニクス産業の悲哀」と評した。『日本経済新聞』(2013年10月11日付)によると、フォックスコンはここでスマートフォン、ICレコーダー、デジタルビデオなどのアセンブリを行う予定だ。

 生産拠点の建設予定地がある同省安順市甘河村は現在、人口約1000人程度の農村だが、同社はここで5万人の就業機会を生み出す計画。10月21日の起工式には貴州省トップの趙克志共産党書記をはじめとする幹部が勢ぞろいした他、翌22日付の貴州省の日刊紙『貴州日報』は、「フォックスコン、貴州はあなた方を歓迎します」の見出しを付けて、同社の進出を1面の全てを使って報じる歓迎ぶりだ。

 貴州省に限らず、大規模な雇用や税収、対外貿易をもたらすフォックスコンは、中国の地方政府が競って誘致したい対象だった。とりわけ、フォックスコンが中国本部を置く深センのある華南沿海地区で人件費の高騰が顕著になり始め、同社が中国の内陸部への進出に本腰を入れた2010年以降、各地方政府による誘致合戦も加速。こうした流れの中で、フォックスコンは2010~2011年にかけて、河南省鄭州市に米Apple社のスマートフォン「iPhone」生産の主力基地を、四川省成都にやはりApple社のタブレット端末「iPad」の生産工場を、山西省太原市にiPhone用部品の生産拠点を設けている。