今年もディスプレイの季節がやってきました。毎年秋の恒例のディスプレイの展示会「FPD International」が、10月23~25日にパシフィコ横浜で開催されます。この機会に、最近のディスプレイの技術進化と、今後期待されるディスプレイの用途の広がりについてまとめてみました。

 最近のディスプレイの技術進化ですが、大きく三つのトレンドがあると筆者は考えています。第1は、高精細化です。中小型も大型も高精細化がどんどん進んでいます。中小型では、米Apple社が「Retina Display」と呼ぶ高精細ディスプレイを「iPhone」に搭載したのに続き、今年は400ppiを超える5型フルHD液晶パネルを採用したスマートフォンが各社から相次いで発売されました。さらに、これまで100~200ppi台の液晶パネルが主に使われていたタブレット端末でも、300ppiを超えるような高精細ディスプレイを搭載した製品が年内にも登場するもようです。一方、大型では、フルHDの4倍の画素数を持つ「4Kテレビ」を世界中のテレビ・メーカーが作るようになりました。日本や韓国などのテレビ・メーカーだけではなく、中国など新興国のテレビ・メーカーもさまざまな画面サイズの4Kテレビをラインアップしています。

 第2は、タッチ・パネル機能の取り込みです。ディスプレイにタッチ・パネルを取り付ける動きは、スマートフォンの普及によって大きなトレンドになりました。さらに、ここにきてタッチ・パネル機能をディスプレイに取り込んでも、パネル全体の厚さや重さ、表示映像の画質をできるだけ犠牲にしないような、インセル型やカバー・ガラス一体型といった新世代タッチ・パネルの利用が加速しています。また、もう一つの新しい動向として、スマートフォンやタブレット端末だけでなく、パソコンやデジタル・サイネージなど10型を超える大型ディスプレイにもタッチ・パネルを取り付ける動きが出始めました。

 第3は、ディスプレイが曲がり始めたことです。今年の1月には、韓国のLG Electronics社が曲面有機ELテレビを発売しました。その後、ライバルのSamsung Electronics社も曲面有機ELテレビを発売。また、この9月にドイツで開催された展示会「IFA」では、両社がそろって4K対応の曲面有機ELテレビを披露しました。さらに、薄くて柔らかいプラスチック基板を用いた、しなやかに曲がるフレキシブル・ディスプレイの研究開発が活発化しています。曲がり始めたというのは、言い換えると、ディスプレイの形状がフラットとは限らなくなってきたことです。プロジェクターを利用し立体形状のものに映像を投射して没入感や立体感、実物感といった新たな映像体験をもたらす立体型ディスプレイも、“フラットを超えたディスプレイ”といえます。

 さて、今後期待されるディスプレイの用途の広がりです。上述の技術トレンドの中で特に新しい動きである3番目の「曲がり始めた」「フラットを超えた」という背景を踏まえて、筆者は次の三つにおいて大きな広がりが期待できると考えています。

 第1は、デザイン性を重視する用途です。例えば、車載ディスプレイでは、ダッシュボードの曲面のデザイン性を損ねないようにディスプレイを取り付けたい、という強いニーズがあります。自由に曲げられるディスプレイや、立体形状の表面にプロジェクターで映像を投射する手法が使えるようになれば、こうした要求に応えられるようになるでしょう。

 第2は、拡張現実を生かした用途です。プロジェクション・マッピングは、その分かりやすい事例と言えるでしょう。例えば、壁が崩れていく映像を実物のビルに投射すると、そのビルがあたかも本当に崩壊しているかのような感覚を覚えます。これまでのディスプレイの使い方とは全く異なる用途が期待できると考えられます。また、同じく投射型の手法を利用したヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)も、拡張現実を生かした用途です。自動車用で市場の立ち上がりが確実視されています。

 第3は、ウエアラブルです。HUDと同様に投射型の手法を持ち込むことで、ヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)のように、ディスプレイを身に着けて使うことができます。これまでのHMDは大きくて重くて見た目も良くありませんでしたが、部品の小型化などによって、これらの課題が大幅に改善されてきました。ウエアラブルの分野では、腕時計型の端末もにわかに話題になっています。

 今年の「FPD International」のフォーラム(セミナー)では、こうしたディスプレイの技術進化と用途の広がりについて、より詳しい情報が得られるようにと意識してプログラムを企画しました(プログラム内容はこちら)。また、開幕前日の10月22日には、特に車載ディスプレイに焦点を合わせたセミナーを緊急開催します(詳細はこちら)。FPD International初日の10月23日には、書籍「ディスプレイ技術年鑑2014」を発行する予定です(書籍の内容はこちら)。皆様の情報収集の一助となれば幸いです。