有機半導体材料を用いた太陽電池である有機薄膜太陽電池の技術開発が加速しています。この数年で最も変換効率が向上した太陽電池の一つになりました。現時点では、ドイツHeliatek社と三菱化学が変換効率でそれぞれ約12%を実現し、開発競争でトップ・グループを形成しています。

 このうち三菱化学は2013年内にも、この有機薄膜太陽電池を実用化する計画です。同社の半透明のフレキシブルな有機薄膜太陽電池シートを用いた実証実験が、仙台市科学館などで2014年3月までには始まります。三菱化学の有機薄膜太陽電池の場合、大面積のシートの変換効率は当初5~7%だとみられますが、従来の太陽電池に比べて非常に軽く、価格も将来的に大量量産が進んだ際には大幅に安く製造できる見通しです。軽くて安ければ、これまで置いたり貼ったりできなかった場所に設置できるようになり、太陽電池の使い方が爆発的に多様化する「太陽電池のユビキタス化」が起こるでしょう。ホームセンターで、“すだれ”の代わりにこうした太陽電池が売られる可能性もあります。

「塗るだけ」の太陽電池に現実味

 有機薄膜太陽電池を開発しているのはこの2社だけではありません。弊誌の取材では、主に日本のメーカー数社が変換効率10~11%の有機薄膜太陽電池を既に開発しており、先行する2社を猛追しています。いわば「第2グループ」です。その中の1社である東レは最近、高分子(ポリマー)を利用した有機薄膜太陽電池で変換効率10.6%を達成したと発表しました(関連記事)。

 Heliatek社や三菱化学の有機薄膜太陽電池は低分子材料を利用し、製造時に真空プロセス、あるいは塗布プロセスでも一定温度に加熱するプロセスが必要です。一方、東レの場合は加熱がほとんど必要ない「非加熱塗布法」で製造でき、既にその非加熱塗布法で変換効率10%台を実現しているとしています。「塗るだけ」のプロセスで変換効率10%の太陽電池が量産できるなら、その社会的インパクトは、今の「メガソーラー」を超えるかもしれません。

FFの改善が急速に進む

 世界を見回すと、この高分子系太陽電池の開発を進めるメーカーや研究機関が目白押しで、「第3グループ」を形成しています。彼らの太陽電池は変換効率こそまだ8~9%ですが、太陽電池の変換効率を決める重要なパラメータである曲線因子(FF)では、0.8前後という高い値を実現する例がいくつか出てきました(関連資料関連論文)。0.8以上のFFは、高効率な結晶Si型太陽電池やGaAs系化合物太陽電池では実現されていますが、これまでの有機薄膜太陽電池のFFは高い例でも0.6台でした。例えば、東レの変換効率10.6%の太陽電池のFFは0.641です。

 最近の研究成果をみると、有機材料の選択とFFは必ずしも依存関係になく、素子構造の工夫で高いFFの値を実現できる例もあるようです。仮に東レの太陽電池で短絡電流や開放電圧の値を維持したままFFを0.8にできると、変換効率は13.2%となり、一部の結晶Si型太陽電池に迫る値になります。有機薄膜太陽電池にはまだまだ伸びシロがあるようです。