最初の関門は宿の予約だった

 筆者が、こうしたイプシロンロケット試験機の打ち上げを取材することになったのは、日経ものづくりの記者N氏から「取材に行きませんか」と声を掛けられたことがきっかけだった。N氏は、以前に液体燃料ロケット「H-ⅡAロケット」の打ち上げを取材したことのある記者で、本当は自らが取材に行きたかったのではないかと思われる。だが、残念ながら予定が埋まっていた。そこで、白羽の矢が立ったのが筆者だった。

 正直、筆者も前々からロケットの打ち上げを見てみたいと思っていた。しかも、幸いなことに筆者の場合は予定が空いていた。筆者はさっそく、上司であるTech-On!編集長のM氏に相談。速攻で取材が決まった。2013年7月30日のことである。ちなみに、このときの打ち上げ予定日は、同年8月22日だった。

 しかし、ここからが大変だった。以前、ロケットの打ち上げ取材では宿の確保が大変と聞いていたことを思い出し、筆者は、善は急げと、イプシロンロケットの打ち上げ場所である内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県・肝付町)の周辺のホテルや旅館をインターネットで早速検索し始めた。ところが、肝付町周辺の宿泊施設は見るところ見るところ空き室なし。これではダメだと作戦を変えて、肝付町観光協会に電話。しかし、ここでも空きのある宿泊施設は見つからず、その代わりにと教えてくれたのが、クルマで1時間ぐらい離れた大崎町や鹿屋市の宿泊施設の連絡先だった。だが、結果は全滅。ならばと、さらにクルマで20~30分ぐらい離れた志布志市の総合観光案内所に電話して情報取集。1カ所だけトリプルの部屋に空きがあったが、1人には広すぎるし高くつくということで、とりあえず保留とした。結局、地図とにらめっこしながら、別の候補地を探すことにした。

 そうして、やっとのことで見つかったのが、某ホテル。風呂/トイレ共同というところが気になったが、内之浦宇宙空間観測所までクルマで1時間ぐらいとの話だったのでお世話になることを決定した。恐らく、なんやかんやで2時間近くこんなことをしていたのだと思う。

 すると、そうした電話を聞いていたのか、編集部の女性陣から「どこのホテルに泊まるんですか」との質問が…。もちろん、筆者は隠さずに答えた。

 しかし、便利な時代とは怖いものだ。しばらくして、「ここじゃない」とか「近くに焼肉屋がある」とかいう声が聞こえてくる。「うっ、何?」と思うものの、それを確かめる勇気が出ない。そうこうしているうちに、女性陣の方から声がかかる。恐る恐る近づくと、画面には、1980年代に建てられた下宿屋のような建物が…。「ここだよね、●●ホテル」。はい、大正解。声には出さずに心の中で答えつつ、その画面がGoogleマップであることを確認する。恐るべし、Googleマップ。こんな地方の小さな町村までも、そのカバー範囲に収めているとは…。

 宿泊先がどんなところかといえば、旅行や出張の際の楽しみの1つだ。そうした密かな楽しみを奪われたのはとりあえずよしとして、行く前から悲惨な宿泊生活が想像できてしまうのはどことなく悲しい。でも、実際のところは、宿泊施設の価値は見た目や造りだけではない。そう自分を説得しつつ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に提出する取材申込書にペンを走らせる筆者だった。