やってみなければ、始まらない

 でも、あまりにも調べ過ぎ、考え過ぎることは、マイナスの効果をもたらします。それは、自分がやろうと考えている製品やサービスの周囲に存在する多くのリスクが見え始めてしまうからです。冒頭で紹介した医療や金融といった他の分野よりもリスクが高いビジネスでは、なおさらその傾向は強まります。

 多くの人間は、できる理由よりもできない理由を考える方が得意です。越えるべきハードルが高ければ高いほど、できない理由を考え始めるようになります。必要以上にリスクを過大視した結果、結局「やらない」あるいは「やるけれども限定的に」と、当初の思いから次第に離れていってしまうのです。

 どんなモノやサービスを作るにせよ、ある程度は見切り発射が必要になります。飛び込んでみたからこそ分かることも多いでしょう。佐俣氏があえて調べ過ぎなかったという話は、自分が納得して腹落ちする臨界点で思い切り良く飛び込んでみることの重要性を示唆しています。

 実際、佐俣氏も当時を振り返って「最初から業界の内実を本当に詳しく知っていたら、クレジットカード決済の分野に入ろうと思わなかった」と話しています。仮にリスクを承知で起業を決断しても、4人でサービス開発を始めようなどとは考えなかったかもしれません。

 佐俣氏は、前職で営業やマーケティングを手掛けてきました。サービスの概要は頭の中で組み立てられても、実際に機器やシステムを開発する技術者がいなければ、ビジネスにはなりません。Coineyの決済サービスの構成要素は、カードリーダー、スマホ・アプリ、Webサイト、そして決済取引システムです。

 起業を決断した佐俣氏は、仲間になってくれる技術者探しに乗り出しました。つまり、決断した時点で一緒に起業する技術者のパートナーたちがいたわけではなかったということでしょう。その探索手法は、まさにインターネット時代、ソーシャル・メディア時代の人材獲得です。

 探す手法は、単純と言えば単純。インターネット検索を駆使し、ひたすらブログやFacebook、Twitterなどで面白い投稿をしている人を探し出す。ピンときたら連絡して会い、一緒にサービスを作らないかと口説いていったそうです。

 その口説き文句が振るっています。「決済の事業がやりたい! カードリーダーを10万個作って普及させたい」という、良く言えば壮大、悪く言えばホラに聞こえそうなビジョンを語ったそうです。

 でも、佐俣氏が語ったビジョンは、その大きさ故に最初にチームに入ってくれた3人のメンバーには突き刺さりました。それは「普段聞かないような、あまりにも大きな話だったから」と、メンバーは後に佐俣氏に話したそうです。「変わっているな。面白そうな挑戦だ」と感じて、チームに加わる決断したわけです。