通常の“エリート研究者”とは異なる経歴

 公園だと思ったら、実は大学だった。東京・三鷹にある国際基督教大学(ICU)のキャンパスだったのである。面白いかもしれないと感じた。調べてみたら少人数の教育環境で、当時から電子工作の他に興味を抱いていた比較文化論なども学べそうだった。

 どうせ大学に入るのなら趣味の電子工学系の学問よりも本質的なことを勉強しようと物理学の専攻を選ぶ。実際、講義は事前の調査通りに少人数だった。量子論や位相幾何学の講義では、先生1人に学生が数人という濃密な時間を過ごしたという。

 「卒論の指導は指導教授と1対1でした。キャンパス内にある先生の自宅リビングでお茶を飲みながら研究の話をするという日本の大学としては考えられない環境で、すごくいい時間でしたね」。北野氏は、こう振り返る。

 ICUには学部が一つ、教養学部しかない。その中に物理学の専攻があった。だから、歴史や哲学の講義では、その道を専攻する学生と一緒に学べた。この経験は、その後の研究にも大きく役立っているようだ。

北野氏が所長を務めるソニーCSLが手掛ける研究分野は幅広い。写真は、同研究所の船橋真俊氏が手掛ける協生農法に関する研究で実際につくられた畑。生態系の全体最適に基づく環境構築型農業をデザインする研究で、その分布を図にしている。場所は、三重県伊勢市にある伊勢農園。(写真:ソニーCSL)
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 中学・高校時代に秋葉原少年だった北野氏は、ICUではまじめに講義に取り組んだ。学業で忙しい中、力を入れたのはディベートである。学内の団体に所属し、大学対抗の大会を目標に英語によるディベート力を鍛え上げた。ディベートのテーマは、政策問題。環境政策や食料政策、海外援助をテーマに他の大学の学生と試合をしたのだという。その準備は大変だった。

 「1年に2回のシーズンがあるんですが、1シーズンに英語と日本語の関連書籍を平均して200冊くらいは読んだでしょうか。その他、論文などの資料も読む必要があるので、普段は大学の図書館にこもって資料調査に専念していました」

 大学までの経歴を見ると、北野氏が日本の通常の“エリート研究者”と大きく違う点を、いくつか指摘できるように思う。

 まず、早稲田大学のような有名大学の理工学系の学部を選ばず、ICUの教養学部で物理学を専攻する道を歩んだことだ。