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電機業界では不可避の「ブルーライト問題」、医師やデバイス研究者を集めた国際会議が開催

電機業界では不可避の「ブルーライト問題」、医師やデバイス研究者を集めた国際会議が開催

増田 淳三=IHS Global Electronics & Media, Director Display Japan  
2013/08/27 09:00
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 電子機器における「ブルーライト(blue light)」の問題は、ディスプレイ業界の関係者にもようやく浸透してきたようだ。機器の利用者にたずねると、ブルーライトは目を疲れさせるので、予防のためブルーライトをカットする眼鏡を掛けているという。また、ディスプレイ技術者に聞いてみると「色々と言われているようだけど、証拠はないのでしょう?」と冷ややかな反応が返ってくることもある。眼鏡屋に足を運ぶと「液晶テレビやLED照明から出ているブルーライトから目を守る眼鏡」といった具体的な広告が掲げてある。眼科医によれば、人間の目は「カメラ」と「時計」という二つの機能を備えており、ブルーライトと目の相関は深いという。一部の眼科医は、懸念されるブルーライトの影響について警鐘を鳴らし始めた。

 エレクトロニクス業界関係者にとって、この問題をもう少し具体的に深く理解することは重要だろう。折しも2013年6月、ブルーライト問題について議論する国際学会「1st International Symposium of Blue Light Society」が東京で開催された。以下では、この学会で報告された内容の一部を紹介するとともに、電子機器が人体に及ぼす影響に関する過去の規制事例を振り返る。ブルーライトについて認識を深めて頂くための一助になればと思う。

 まず、各種の電子機器がどのようなスペクトルの光を発しているかをおさらいしたい。公表データがないので正確にはわからないが、各種光源に使われる白色の「電球」「LED」「有機EL」のそれぞれについて、スペクトルの概念図を図1に示した。3種類の光源のうち、LEDでは青色の光と黄色の蛍光材から白色を作り出しているが、問題となるのは青色光に相当する波長(460nm)のピーク(ブルーピーク)である。液晶ディスプレイのバックライトにLEDを使う場合、ブルーピークにおける光強度は制御できるだろうが、ピーク波長そのものを変えることは難しそうだ。このため、LEDを用いたディスプレイや照明は、ブルーピークに起因する影響を利用者に与える懸念がある。

図1●各種光源のスペクトルの概念図
[画像のクリックで拡大表示]

 今回の学会は、慶應義塾大学 医学部 眼科学教室 教授の坪田一男氏の呼び掛けで開催されたものである。著名な眼科医や精神科医、電子デバイスの研究者、欧州CIE(国際照明委員会)、LEDメーカーなど、世界中の幅広い関連機関と業界から講演者が集まった。残念ながらディスプレイ関係者の講演はなかったものの、同学会の趣旨や内容は傾聴に値するものだった。

 筆者の医学的専門知識は皆無に近いため、詳細な解説ができない点はご容赦願いたいが、ブルーライト問題とは要するに次のような問題である。先にも述べたように、人間の目はカメラと時計という二つの重要な機能を持つ。そのため、目がブルーライトに過剰にさらされると眼球の損傷が懸念される。これはカメラ機能への影響である。次に、昼夜関係なく目にブルーライトが当たり続けると、サーカディアン・リズム(約1日を周期とする生体のリズム)に異常をきたす懸念がある。これは時計機能への影響である。今回の学会はこれら2点を中心にブルーライト問題を幅広い視点から解明し、将来への禍根(かこん)を残さないようにしようとの趣旨で開かれた。

「カメラ」と「時計」の両機能に影響する懸念

 まずカメラ機能への影響については、マウスを用いた研究などから、目がブルーライトに長時間にわたり過度にさらされると、「老人性黄斑変性」を生じる可能性が否定できないとの結果が報告された。老人性黄斑変性はiPS細胞を用いた治験が始まったことでも知られているように、難病である。講演した眼科医によれば、人間の網膜のうち、焦点を当てて見るのに寄与している部分の直径はわずか0.35mmほどで、その上にある直径1.5~2mmの黄斑部にルティンと呼ばれる物質が存在する。ルティンはブルーライトの波長を遮断し、網膜を保護して視力を守る役割を果たしているという。そこへブルーライトが過度に当たると、黄斑部が損傷を受けて老人性黄斑変性を発病する可能性があるというのだ。

 別の発表によれば、人間の眼球の設計寿命は50年ほどであり、40代頃からはレンズが黄色くなってブルーライトが自動的に遮断され、その後レンズは白内障に至る場合が多いという。このことは裏を返せば、レンズに曇りがない若者層はブルーライトの遮断能力が低く、その影響を強く受ける可能性があるということになる。

 もう一方の時計機能の観点からは、ブルーライトはもともと人間に欠かせない光だという。陽が昇ってブルーライトにさらされることで人間は覚醒して行動し、陽が沈んでブルーライトが消えると体内のメラトニン・レベルが上昇して睡眠へ誘導される。

 ところが近年、LEDバックライトを備える電子機器やLED照明が普及してきたことで、人間の目は昼夜を問わずブルーライトにさらされるようになった。このことが、人体のメカニズムに基づく生活リズム(サーカディアン・リズム)を崩す可能性があるというのである。

 慶応大学の坪田氏によれば「ブルーライト波長に吸収ピークを持つ“第3の視細胞”と呼ばれる細胞群が最近発見され、これがサーカディアン・リズムを制御していることがわかってきた」。ブルーライトは昼間には体内にたくさん取り込むのがよいのだが、夜になってもブルーライトにさらされ続けると問題だという。夜になってもブルーライトを見続けていると「“まだ昼だな”と体が認識してしまう」(坪田氏)というわけだ。

 ブルーライトの中長期的な影響を検証する作業にはしばらく時間がかかりそうだが、電子機器利用者がブルーライト・カット眼鏡を着用する動きは既に始まっている。米Johns Hopkins University教授のSliney氏は今回の学会で「ブルーライト・カット眼鏡の着用は現時点ではrequirement(要請すべき事項)とまでは言えないが、利用者が自らのinsurance(保険)として着用することを否定する理由はない」と語っていて印象的だった。

欧州では規制に向けた動きが始まる

 LED研究者による発表も興味深かった。米University of California 教授のHunt氏によれば、現行方式のまま白色LEDの発光効率を高めようとすると、どうしてもブルーライト波長の輝度を高めることにつながってしまうという。LEDメーカーからはこの問題に対処する技術として、太陽光に近い発光スペクトルを備えたLEDを開発していることが紹介された。

 ブルーライトを規制する立場からの発表としては、欧州のCIEから、LEDランプのブルーライトに関して近くクラス分けを実施するとの報告があった。登壇者に講演後、「スマートフォンやテレビに関しても同様の取り組みをしていくのか?」とたずねたところ、「検討中」との回答だった。まずは急速に普及が進むLED照明を対象とし、今後は電子機器全般にわたってブルーライトの規制に関する検討を進めていく考えのようだ。

 後日、NHK大阪がブルーライトに関する特集番組を放映していた。それによると、ドイツ工業規格(DIN)はLED照明のブルーライトに関するガイドラインを既に打ち出しているという。そのガイドラインに基づいて、大学の教室で昼間はブルーライトを強調し、夜は減光するという実験が行われた様子が紹介されていた。実験に参加した学生からは好評だったようだ。同様の実験を行っている日本の大学も紹介されたが、担当教授は「人体に良いだろうと思われる対策でも、日本では科学的根拠がないと宣伝できない」と語り、公的機関での研究の推進を訴えていた。

 同番組からは、ブルーライト問題に関する日本と欧米の温度差を感じさせられた。ただし、先の国際学会は決して「それなら電球時代に戻ろう」といったネガティブなトーンではなく、「問題があるなら対策しよう」という前向きな趣旨で議論が行われたことを強調しておきたい。

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