「体験のシェア」に特化した機器開発

 例えば、GoProシリーズの最新機種「HERO3」は、外形寸法が40.5mm×59mm×30mmで、重さが73g。ちょうどマッチ箱の大きさを想像してもらえばいいだろう。(Tech-On!の関連記事「デジカメの革命児『GoPro』、300万台超を売った人気の秘密」)

 前述した通り、カメラ本体の機能は限定的だ。広角レンズによる動画と写真の撮影。ほぼそれだけである。動画の圧縮方式は国際標準規格の「H.264/MPEG-4 AVC」。最上位機種では、最大で4K×2K(3840×2160)画素の動画を15フレーム/秒で撮影できる。

アクション・カメラの代名詞「GoPro」。
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 アウトドア・スポーツ向けを特徴づけているのは、標準で付属する防塵・防水用のケースである。このケースは最大で水深60mでの利用に対応しており、外形寸法は66mm×72mm×37mm。ほとんどの場合、この防塵・防水ケースに収容して撮影する。カメラ本体とケースなどのセットで、価格は2万5000円~4万3000円ほど。価格帯は、コンパクト型カメラの平均単価を上回る。

 ケースに収めたカメラを身体やスポーツ用品に取り付けるための周辺アクセサリのオプション品は豊富だ。競技用のヘルメットやサーフボード、自転車のハンドルに取り付けるためのさまざまなマウントや、水辺で落としてもカメラが沈まないようにする「浮き」などを1500~数千円ほどで用意している。TMR台北科技の調査では、GoProシリーズの売り上げの2割を周辺アクセサリが占めるという。

 この単純な機能の製品がヒットにつながった大きな理由の一つは、「体験のシェア」に特化した機器開発にある。自分の体験を動画や写真で友人や同好の士に伝えたいという潜在的なニーズが、アクション・カメラの躍進につながった。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画共有サイトといった、画像を共有するソーシャル・メディアの普及が、これを支えている。

 アクション・カメラをメイン・ステージに押し上げたキーワードは、「POV(point of view)画像」である。ユーザーの目線と同じ視点から撮影した動画や写真を指す言葉だ。スポーツであれば、実際にプレーしているユーザーがどこを見ているかを追体験できる画像である。これは、ここにきて開発が活発になっているメガネ型のヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)と同じ発想だ。

 POV画像には、もう一つの意味がある。それは「特定のモノが見ている」と仮定した場合の画像である。アウトドア・スポーツの現場であれば、サーフボードや自転車、自動車、スノーボードなどにカメラを取り付けて撮影した画像だ。アクション・カメラを用いたこれまでになかった視点の画像が、ソーシャル・メディアの普及と相まって「面白さ」「驚き」といった愛好者同士の共感を醸成する原動力になった。

 もちろん、一般的なデジタル・カメラやビデオ・カメラ、スマートフォンでも工夫すれば同じような画像を撮影できる。だが、すべてを省いてPOV画像の撮影に特化し、外付けの周辺アクセサリを充実させるというアクション・カメラの機能性が撮影を格段に手軽にした。「カメラとは手にもって撮影するもの」という既成概念を超えて、「ヒトやモノに取り付けて撮影する」という新しいユーザー体験を現実のものにしたのだ。