センター・コンソールの2DINサイズの筐体に収められていたカーナビ(カー・ナビゲーション・システム)の機能の一部が、車内の別の場所やネットワーク越しのサーバーなどに分散していく――。こうした動きを、『日経エレクトロニクス』2013年6月24日号の解説記事「機能分散するカーナビ」にまとめました。ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)などを使った運転者への新しい情報提示や、クラウドを使った高度な処理や情報共有を行う新世代のカーナビを紹介しています。

 この記事に携わっている間、ずっと思っていることがありました。「もしかしてクルマは、ウエアラブル端末の先行例なのではないか」と。車両における運転者の位置や姿勢は決まっており、車両に固定されている各種のデバイスと運転者との位置関係がほとんど変わらないからです。運転者の視界に合わせて配置したHUDはユーザーが身に着けたヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)と同様の役割を果たしますし、スイッチやタッチ・パネルなどの入力デバイスも運転者に近い場所に配置できます。

 今、自動車メーカーやカーナビ・メーカーは、自動車の運転という目的を持って人が行動しているときに、運転行動を妨げずに情報を提示したりコンピュータを操作させたりするにはどうしたらよいかを模索しています。「どの機能を車内のどこに置いて、どのような見せ方や操作方法にすればよいのか」という問いに対する答えは、入出力デバイスの進化によって日々変わっているようです。例えばホンダが2013年6月20日に発表した新型「アコード ハイブリッド」は、(1)燃費やエコ運転情報、ターン・バイ・ターンの経路案内情報などを表示する、メーター群の中央に配置した「マルチインフォメーションディスプレイ」、(2)カーナビの地図を表示するディスプレイ、(3)オーディオ機能の表示画面であるとともに文字入力用のキーボードとしても使えるタッチ・パネル機能付きディスプレイ、の三つのディスプレイを搭載していました。

 振り返れば、自動車はユーザー・インタフェースの先行事例だったといえます。タッチ・パネル一体型ディスプレイを使った機器としていち早く一般ユーザーに広がったのはカーナビでしたし、特定のコマンドを音声で読み上げることで利用できる音声認識機能も早くから搭載していました。回転と押下、触覚フィードバックなどに対応する多機能スイッチを自動車内の各種装置の制御に使う例もありました。

 HMDやスマート腕時計など、ウエアラブル機器に関するニュースを耳にすることが増えています。そうした機器をどのように活用していくべきかを考えるときに、クルマでHUDを活用するなどの試みから得られた知見が生きてくると思います。カーナビやクルマに直接関係していない方にも、ぜひ記事をお読みいただければ幸いです。