前編では、創造的なアイデアを意識的に生み出すための手法「デザインシンキング」について、同手法の活用支援コンサルティングを手掛ける富田欣和氏に聞いた。後編では、欧米がデザインシンキングをどう活用しているのか、それに対して日本の企業はどう導入すべきかについて、引き続き同氏に尋ねた。(聞き手は高野 敦=日経ものづくり)

――欧米の大学や企業は昔の日本を研究した上でデザインシンキングに取り組んでいるということですが、それは大学が研究し、企業が実践するというような関係なのでしょうか。

富田欣和(とみた・よしかず)氏
慶応義塾大学大学院非常勤講師。同大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科でデザイン・プロジェクトや起業デザイン論、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。イノベーティブ・デザイン合同会社代表としてイノベーティブ思考によるソリューション開発支援を手掛けるなど、数社を経営している。実務に生かせる社会システムデザインやイノベーション・マネジメントの研究に取り組んでいる。同大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。

富田氏:我々が今回欧米の大学や企業を視察して感じたのは、大学と企業の境目がなくなっていることでした。もうかるかどうか分からないことを地道にやるのが大学で、もうかりそうな場合にそれを具現化するのが企業というのが従来の役割分担でした。ところが、デザインシンキングに関していえば、それがあいまいになっています。

 例えば、今回の視察対象の1つに米IDEO社というイノベーション・コンサルティング・ファームがありましたが、IDEO社の方と午前中に議論し、午後に(やはりデザインシンキング教育に熱心な)米Stanford Universityに行くと、午前中に議論したIDEO社の方が「d.school」(Stanford Universityのデザインスクール)の学生に講義をしていました。それだけでも驚いたのですが、次にd.schoolの教授と意見交換をした後で何気なくこの後の予定を尋ねたら、「IDEO社に行ってプロジェクト・ミーティングに参加する」と言うのです。それぐらい大学と企業の間で人の行き来が盛んです。

 そうした人の行き来を歓迎するオープンな雰囲気をIDEO社やStanford Universityには感じました。さすがにIDEO社はさまざまなクライアント企業の機密情報を抱えていることもあり、社内を自由に動き回れるわけではないのですが、Stanford Universityではあらゆる場所に入ってもらって構わないということでした。このオープンな場にさまざまな人材が出入りして、新しいものを生み出そうとしています。人やアイデアを囲い込むのではなく、使えるものは誰のアイデアだろうが使っていくという姿勢を感じました。

――そうしたオープン・イノベーションに意識的に取り組んでいるとなると、日本の企業は太刀打ちできなくなりそうです。

富田氏:確かに、日本には無意識にイノベーションを生み出していた時代があったかもしれませんが、そういうやり方を大分忘れてきているのも事実です。イノベーションを意識的に生み出すことを目的に設計された組織がシステマチックに取り組んできたら、日本の企業にとってはかなりの脅威となるでしょう。しかも、それをやっているのは世界でも有数の頭が切れる人たちで、いわば超天才をネットワーク化して協業させようとしているわけです。