計画ではなく予測なのです

 この背景には、これまで何度か紹介しているように創業者や開発リーダーがテレビ局出身だということがあります。数百万人が視聴するテレビ番組の制作では、老若男女、誰もが分かる分かりやすさに腐心する。数百万人が使う前提で考えると、アプリをシンプルな構成にすることが必然となります。このバックグランドが開発の方針に影響を与えているのでしょう。

 ここまで紹介してきたアプリ版ボケての開発の様子からは、二つの「ヒットの要諦」が見えてきます。

■今回の「ヒットの要諦」
その1:社内外の優秀なエース級人材と組んでチームを作り、
     成果をしっかり配分すべし!
その2:製品やサービスの機能は、迷ったら削るべし!

 これがうまくいった背景には、伊勢氏がリーダーとして掲げた指針が分かりやすかったという点が大きかったのでしょう。企画書兼事業計画書を見ると、「アプリの公開後にどれくらいの人が使い、どう拡大していくか」という開発後の姿を意識していることが分かります。

 興味深いのは、事業としての実行プランを堅苦しく詰め過ぎていないこと。アプリ・ビジネスの半年後、1年後を予測するのは難しく、いつでもその時の状況に流動的に対応できる余白を残しておくためです。かといって無計画なのではなく、いくつかのシナリオ案を念頭に置きながら、対応パターンを記述するスタイルで計画立案を進めています。

 伊勢氏は「計画ではなく予測なのです」と語っていました。もちろん、これはエース級人材が有機的に絡み合いながら開発したからこそ、実現できたことでしょう。この開発チームづくりの手法が、どこの会社でも機能するかどうかは分かりません。しかし、一つのユニークな考え方として、試しに考慮してみてはいかがでしょうか。

 もう一つの要諦である「迷った機能は採用しない。むしろ削ってシンプルにする」という考え方は、大手企業の不得意な部分でもあります。関係者が多いほどに、思い入れのある機能は増え、そしてそれがすべて実装されてしまうという結末が待っているからです。

 機能を削るためには、削った方がいいという決断が下せる「ビジョン」と「強い思い」、そして「勇気」が必要です。このことは、製品やサービスの開発に携わるすべての技術者が、胸に手を当てて見つめ直すべき開発の要諦かもしれません。

 次回は、アプリ版ボケての開発リーダーを務めた伊勢氏に聞いたインタビューの肉声をお届けしたいと思います。