それはユーザーにとってどんな価値がある?

 UIや使い勝手自体が機能の一部である以上、「実現しようとしているサービス価値」と「そのために必要な機能・性能」、「ユーザーにとっての利便性」のバランスを高いレベルの均衡点に持っていく必要があります。優れたユーザー体験を提供するには、全体感覚を持って機能を設計しなければなりません。
 
 この問題を根本的に解決する糸口は、「企画する製品やサービスを誰が使うのか。それはユーザーにとってどんなメリットや価値があるのか」という根源的な問いを考えることにあります。言い換えれば、「サービス定義」と「ユーザー定義」です。

 アプリ版ボケてではパソコン版サービスを運営していた蓄積によって、ある程度のサービス定義とユーザー定義が既に存在していました。その点は、イチからアプリを開発するプロジェクトとの違いです。ただし、既存のパソコン向けサービスのユーザーと、新規にアプリを使うユーザーの両方が使うアプリを作るという課題がありました。

 これを解決するために、開発チームはアプリ版であらためて明確なサービス定義を構築しています。開発初期の企画書には、「ボケては『写真で一言』の爆笑ボケをスマホで見るサービスです」というアプリの定義がありました。

アプリ版ボケての開発初期の企画書(資料提供:ハロ)
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 ここでは、「スマホで見るサービス」という点がポイントでしょう。企画書の中にはサブ項目として「ボケをつくる!」という定義もありますが、前述したように「見る」という最上位の定義を使いやすくするために最終的には、この機能は省かれています。既存ユーザーと、スマホから初めてボケての世界に入ってくるユーザーの公約数は「ボケを見る」という行為だからではないでしょうか。

 アプリ開発のユーザー定義では、「テレビ番組を上回る笑いを目指す」というボケての原点に立ち返っています。前回の本コラムで、パソコン版ではコアユーザーを核に、その周辺ユーザーを取り込んでいったという過程を紹介しました。

 一方、アプリでは、「最初から100万人以上が使っても大丈夫であるように考えて、UIのデザインや機能を決めました」と伊勢氏は話しています。「例えば、アプリのUIにボタンが6個もあったら複雑だから、削ろうという感じで機能をシンプルにしていきました」(同氏)。