「京」の100倍の処理能力をもつスーパーコンピュータを2020年までに日本から登場させる――。文部科学省が、次世代スパコン開発プロジェクトを立ち上げようとしている。1秒間に10の18乗回の計算が可能な“エクサ級スパコン”によって、自動車、エレクトロニクス、医薬などの設計・開発力を一気に高める。

かつてのスパコンが今や手のひらに

現行スパコン「京」の一部
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 スパコンとは「その時代で処理能力が極めて高いコンピュータ」と言える。仕組みや構成は他のコンピュータと変わらない。世界3位の速さを誇る「京」の処理能力は10P(ペタ、10の15乗)FLOPS(フロップス、毎秒の浮動小数点演算の処理回数)。市販の高速なパソコンの数万倍だ。もっとも「スパコン」と呼べる性能は時代と共に変わり、1997年にチェスの世界チャンピオンを負かした「Deep Blue」の能力は、最新のスマートフォン「iPhone 5」に載っているプロセサ「A6」の半分に満たない。

 スパコンの開発は、世界中で国を挙げて進んでいる。米国は1991年にHPC法(High-Performance Computing Act)を制定、エネルギー省や国防総省に加え米IBM社などのメーカーを巻き込んだ国家プロジェクトを継続中。2010年のスパコン関連予算は18億8300万米ドルだったという。2020年にエクサ級スパコンの稼働を目指す。欧州では、各国が共同開発プロジェクトを立ち上げ、やはりエクサ級スパコンを開発中だ。中国は、現在進行中の5カ年計画と次期5カ年計画で、2020年までにエクサ級スパコンを開発するとみられる。自国でマイクロプロセサを開発・生産する。

 各国が、スパコンを国家プロジェクトとして莫大な予算をつぎ込んで開発するのは「性能競争で1位になる」という威信のためではない。高精度で高速のシミュレーションによって、防衛や防災に有益となるのに加え、製造業など多様な産業の競争力を底上げする利用基盤となり得るためだ。宇宙開発と同様、最高性能を求める要素技術開発が、他の産業に波及する効果も期待できる。