日本メーカーが新興国市場の攻略に本腰を入れている。中国やインド、東南アジア、南米といった経済成長が際立つ新興国で生き残りを懸ける構図だ。では、新興国市場での地位を獲得するために日本メーカーは何をすべきか。
 新興国戦略の重要性を記した『脱ガラパゴス戦略』(東洋経済新報社、共著)を2009年12月に出版した、野村総合研究所の北川史和氏は、「アジアを中心とする新興国の地理的な距離の近さが、制度や文化も近いという思い込みにつながった」と指摘する。年収が1万米ドルを超える生活者の拡大が好機になると説く。

きたがわ ふみかず 1967年生まれ。1992年に北海道大学 農学部卒業。1994年に米University of Wisconsin-Madison 修士課程修了後、野村総合研究所入社。専門は、グローバルに展開する製造業の戦略コンサルティング、新規事業開発など。主な著作に『脱ガラパゴス戦略』(共著、東洋経済新報社)など。

 『脱ガラパゴス戦略』では、世帯年収が“1万米ドル”を超える生活者を、新興国攻略のターゲットに据えた。新興国での生活者調査の経験則から浮かび上がってきた数字だ。

 1万米ドルは、日本円では100万円弱である。日本の感覚では低所得だが、新興国では生活に固定費があまり掛からないケースが多い。親と一緒に大家族で生活しており、食費や住居費には困らない。可処分所得が多く、高級品やぜいたく品を買える。

 収入の多くを耐久消費財に使える生活者が、世帯年収1万米ドルを境に増えるのである。自動車やデジタル家電など、先進国の生活者と同じ製品に興味を持ち、実際に購入できる。

 最近、野村総合研究所で中国内陸部の家庭を調査した。その際にも、世帯年収が1万数千米ドルの家庭は、1万米ドル以下の家庭に比べ、保有する自動車などの耐久消費財のグレードが高まる傾向があった。