ハーネスの動きや変形を表現

 富士通とデジタルプロセスのデジタル・モックアップ(DMU)・ツール「VPS」には、ハーネスの形状を定義してシミュレーションできるモジュール「VPS/Harness」がある。複写機やサーバなど、ハーネスを含んで数万点を超える部品で構成される製品の組立工程や、完成後の機構動作を検証できる。

 以前からVPSには、富士通研究所(本社川崎市)などと共同開発した柔軟物モデリング技術を用い、長いハーネスが重力などでたるんだ様子を表現できるようにしていた。このたるみが組立作業や機構動作にとって邪魔にならないかを検証できる。2011年には柔軟物の変形を動的にシミュレーションする技術も追加し、 アニメーションによって作業や動作の状況を見られるようにした。

 VPS/Harnessは、パソコンやサーバなどによく使われる、線を平らに並べて一体化したフラットケーブルの設計にも対応している。フラットケーブルの幅と線の本数を定義することで作成できる。経路途中での折り曲げ位置や方向、折り曲げはフラットケーブルの一方の面から見て山折りか谷折りか、などを指定したり、変更したりできる。  DMUツールであるため、CADから機構部分の3Dモデルを読み込んで作業する。経路の決定と同時に組立性の検証が可能なため、生産技術部門がハーネスの設計を担当する場合に向く。

 デジタルプロセスは、3D-CAD「ICAD/SX」にもハーネスの3D経路を作成する機能を持たせている。電気部品の配置と編集、経路長さの測定ができる。エレ設計段階でハーネスを引き回すための空間を確保したり、ハーネスの概略を設計するのには、CADのハーネス設計機能の方が向くと考えられる。

確定部分から経路を決定

 3D-CADにもfrom-toリストを読み込むなどして3D経路を発生させる機能がある。例えば、「SolidWorks」(米Dassault Systemes SoidWorks社)には経路を作成するアドインモジュール「SolidWorks Routing」がある。エンブレムはこれとは別に、さまざまなハーネス設計向けの機能を加えたAdvanced Routing/HarnessDesignを開発した。メカ設計者がハーネス設計を手掛ける場合のほか、生産技術者がSolidWorks自体を操作できる場合にも適用できる。進行中のメカ設計のCADデータをそのまま使用してハーネスの設計/検討ができる。

 このメリットをより生かせるように、Advanced Routing/HarnessDesignの最新版では、ハーネスの一部区間だけを設計できる機能を加えた。メカ設計の進行度合いによって、ほぼ確定した部分とそうでない部分がある時、両方にまたがるハーネスは、通常では設計に着手することが難しい。これを、ハーネスの区間を分けて、確定している部分だけ先に経路やクランプ位置を決定できる。同ツールでは、動作スピードを上げるための簡略表示と、詳細に表示する機能の両方があるが、これを同一ハーネスの区間ごとに切り替えて適用することも可能だ。

 途中区間の端には「セクションピース」と呼ぶ、仮のコネクタのような部品を定義する。全区間のハーネス設計が終わったら、合計の長さを求めたり、セクションピースを取り除いて一体化したりできる。データ構造上は、区間ごとのハーネスがサブアセンブリとして全区間のアセンブリを構成しており、一体化するとアセンブリの階層構造が1つ減る。

 ハーネスを使う製品は極めて多いが、メカ設計以降の設計リードタイムを短縮するといった観点では、意外に盲点になっている。金型と異なり、3Dデータをそのままハーネス製作の自動化に使うこともできない。であればこそ、ハーネス設計はメカ設計から間を置かずに始めて、いかに速く作業を完了するかが勝負になる。