手書きの報告書

 富士通が垂直記録方式の研究再開を決断したのは2000年末だった。東芝や日立からおよそ2年遅れていた。

 再開が決まってすぐ,渦巻はあるベテラン研究者を訪ねる。研究者人生の1/3を垂直記録媒体にささげた人物だった。彼から手渡された技術報告書の束は,10年前の技術者の思いでずっしりと重い。垂直記録の課題や,それに対してどのように取り組んだかが手書きで克明に記されていた。この報告書を起点に,渦巻は垂直記録媒体の研究を手探りで始めた。最初は,記録密度が全く伸びない日々が続く。何をやってもうまくいかない。きっと先輩たちも同じように苦しんだのだろう。

 2002年にはヘッドの研究も始めた。担当者は,1990年当時も垂直記録の研究に携わった戸田順三。垂直記録の課題や弱点を熟知した頼もしい存在だ。二人の努力は徐々に実を結ぶ。2002年下期にディスク1枚で30Gバイトの2.5インチ型を,さらに2004年にはディスク1枚40Gバイトの2.5インチ型の試作機を作製した。

 富士通は2005年夏,垂直記録方式を使った製品を2006年夏以降に量産する決断を下した。現在も,渦巻らの仕事は終わっていない。昔と違って,今では製品を無事に出荷するまでが研究所の仕事である。記録媒体の製造を担当する山形富士通に,渦巻の部下が常駐して支援を続けている。

富士通は,2006年夏以降に垂直記録方式を用いた2.5インチHDDを製品化する予定である。下の写真は,左から開発に携わる溝下義文氏,戸田順三氏,田中厚志氏,渦巻拓也氏。同社は2002年下期に垂直記録方式を用いて,30Gバイト/ディスクの2.5インチHDDを試作していた(左)。(集合写真:花井智子)
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