長い冬の時代へ

 1990年代初頭には,三浦だけでなく多くの研究者が垂直記録方式の実用化から手を引いた。IBM社の発表で,すっかり流れが変わってしまったのだ。垂直記録方式に,長い冬の時代が到来した。

東北工業大学 学長の岩崎俊一氏。垂直記録方式の原理を提唱した。

 学会では垂直記録方式関連の論文数が1980年代後半から下降線をたどった。1990年代に入ると口頭発表から締め出され,ポスター・セッションに追いやられた。

 「このままでは,まずい」

 垂直記録方式の発案者である東北大学 教授の岩崎俊一は,焦燥の念に駆られた。手をこまねいていては垂直記録方式の火が絶えてしまう。岩崎は1989年に「垂直磁気記録国際会議(PMRC)」を立ち上げたのを皮切りに,研究者たちの道標や支えになる「灯台」の役割を自ら買って出た。

 しかし,すっかり冷え切った垂直記録方式の冬は終わらなかった。1995年には,富士通と協力したCenstor社もついに開発を断念。岩崎は,1996年に米国シアトルで開かれた「Intermag 1996」に,自ら発表者として応募することで口頭発表への参加をねじ込むなど,必死の抵抗を続けた。(文中敬称略)