1977年に垂直記録方式を発表

 1975年,英University of London――。東北大学で教授を務めていた岩崎は,国際会議「Intermag1975」で発表の壇に立った。Intermagは米国で開催されることが多く,珍しくロンドンで開かれた学会に岩崎の心は躍った。せっかくの機会だからと,発表の様子を写真に収めている。

1970年代に国際会議「Intermag」で発表する岩崎俊一氏。

 このとき報告した研究成果が,岩崎が垂直記録方式の実現へ踏み出した第一歩だった。

 当時岩崎は磁気テープを強く磁化すると,かえって再生出力が弱くなってしまう現象の解明に取り組んでいた。その原因は,磁気テープの内部で磁化の向きが環状に閉じてしまい,外部に磁束が漏れなくなる「回転磁化モード」にあることを,岩崎は突き止めた。

 Intermag 1975で発表したのは,この状態を打ち破って磁束を外に取り出す手法である。会場に詰め掛けた数百人の研究者の前で,テープに垂直な方向に磁界を加えれば出力が取り出せることを岩崎は力説した。この方法を適用したとき,テープの内部の磁化は垂直方向に向くと気付いたことが,岩崎のその後の人生を変えた。

 垂直磁化を情報の記録に応用する可能性に着目した岩崎は,長手記録方式から垂直記録方式の研究へと大きく舵を切った。

 幸先は良かった。

 わずか1年後,垂直記録に適したCo-Cr記録媒体を偶然にも見つける。記録媒体を手に入れたことでヘッドの開発も加速した。媒体とヘッドがそろえば,記録再生特性を測ることができる。実際に測定したそれは,垂直記録方式の優位性を証明するものだった。

 当時最先端だった米IBM Corp.の大型磁気ディスク装置と比べて,5倍の記録密度を達成する可能性が見えた。岩崎は最新のデータを携え,1977年に米国ロサンゼルスで開かれた「Intermag1977」に勇躍乗り込んだ。

 「興奮した。革命的な発表だ」

 大反響だった。何人もの米国の研究者が岩崎の手を握りながら褒めたたえたという。岩崎の発表は学会の枠を超え,世間までをも驚かせた。ある日本の新聞は「記憶量ケタ違い」と題して,受験生が垂直記録方式をうらやむ1コマ漫画を掲載した。(文中敬称略)

第2話に続く