前回の本コラムでは、携帯電話機(フィーチャーフォン)の世界で既に“第3ラウンド”が始まっていること、すなわち台湾や中国のベースバンドICメーカーが続々と参入してきていることを紹介しました。我々の生活において、携帯電話機と同様に身近でコモディティ化した機器に、テレビやパソコン(PC)があります。今回は、これらの機器に付随して使われる光ディスク装置(optical disk drive:ODD)について見ていきましょう。

 光ディスク装置は特定の規格に準拠して作られる製品です。そのため、市場の立ち上がりの時期には、さまざまな規格が乱立することが多い。現在のBlu-ray Discにかつて「HD-DVD」という対抗規格があり、両者をめぐる激しい企業間の争いがあったことは記憶に新しいところです。

 そうした対立が終わった後に普及期に入り、“改良”のフェーズが始まるわけですが、改良とはいっても、数字的には劇的な変化が起こる場合が少なくありません。Blu-rayレコーダでいえば、「等速」に相当する書き込み速度は36Mビット/秒ですが、2倍速や6倍速、さらには12倍速といった具合に年々数字が向上し、それに応じた機種が加えられることになります。現在は15倍速というものまである。

 こうした技術進化は大変素晴らしいものではあるのですが、一般ユーザーから見ると、Blu-rayレコーダはあくまでもBlu-rayレコーダです。大半の消費者にとっては、書き込み速度が高いというのは買い替えの動機にはならないのが実際のところでしょう。「技術は世界一でもビジネスではそうではない」という、日本の電機業界を揶揄する声をときおり耳にしますが、こうしたBlu-rayレコーダの“倍速競争”にもそれと似た構図を感じてしまいます。

 CDプレーヤーにDVDレコーダ、そしてBlu-rayレコーダ。一家に複数台の光ディスク装置が使われている状況は確かにあるとしても、2倍速以上の性能が必要になる頻度はいったいどれほど高いでしょうか。疑問符を付けざるを得ません。

 筆者は先だって、シンガポールでBlu-rayレコーダを買おうと試みました。ところが、街角にある販売店のどこを探しても見当たらない。店員さんに聞いたところ、売れ筋はBlu-rayレコーダではなく、日本円で3000~5000円ほどの「DVD再生専用プレーヤー」だというのです。今やアジアを代表する発展国の一つとなった、シンガポールでさえこの状況です。

 図1に示したのは、同国で購入した現地メーカー「AKIRA」のDVDプレーヤーです。この製品は、その店員さんのいた販売店で最もよく売れている機種の一つとのこと。早速分解したところ、台湾MediaTek社の光ディスク装置用コントローラが搭載されていました。MediaTek社はDVDプレーヤー向け半導体では、市場の覇者といってよい存在です。前回ご説明した第3ラウンド、すなわちMediaTek社を競合他社が脅かす状況が生まれても不思議はないのですが、この領域では依然としてMediaTek社が他の追従を許していないようです。

図1:シンガポールで購入したDVDプレーヤー
図1:シンガポールで購入したDVDプレーヤー

 光ディスク装置市場でのMediaTek社の強さの源泉は、同社のチップに垣間見える徹底した“デジタル化戦略”にあると筆者はみています。図2に示したのは、MediaTek社のDVDプレーヤー(PC内蔵型を含む)用チップと、日本を代表する半導体メーカー2社のDVDプレーヤー用チップです。これらのチップは機能的にはほぼ同等ですが、外見はまったくの別物です。とりわけMediaTek社のチップは、他のチップと“顔つき”が大きく異なる。アナログ回路の比率が極めて小さく、ほぼデジタル機能だけのチップなのです。対して、日本メーカーのチップはいずれもアナログ回路の占有面積が大きく、いわばミックスド・シグナルといった顔つきをしています。

図2:各社のDVDプレーヤー用チップの比較
図2:各社のDVDプレーヤー用チップの比較

 アナログ回路と比べてのデジタル回路の利点はいくつもありますが、最も大きな利点は「再生産性の高さ」だと筆者は考えます。デジタル回路は、RTLと呼ばれる機能記述を基に、論理合成を用いることで別のプロセスに移行することが容易にできるのです。MediaTek社のチップでは、若干搭載されているアナログ回路の部分さえ新規に設計すれば、瞬く間に新機能(倍速)を持つ光ディスク装置用チップができあがるという具合です。