「情報」について

 最後のまとめの前に、本連載で使っている「データ」「情報」「インテリジェンス」「ノウハウ」「知見」などの言葉を、改めて整理しておきたい。もとより言語学的な解釈というよりも、通説的な解釈を基本としてPLMに関連させて解釈したものであることをご容赦いただきたい。

「データ」:「事実としての数値、文字、画像などの形式」(広辞苑)

「情報」:「(1)あることがらについてのしらせ (2)判断を下したり行動を起こしたりするために必要な、種々の媒体を介しての知識」(広辞苑)

 それだけでは判断ができない、または判断しにくい生のデータを、人間が判断可能、または判断しやすく抽出・加工したものが「情報(Information)」であろう。しかし、実は日本語でいう「情報」にはもうひとつ重要な意味があり、それが「Intelligence=インテリジェンス」である。

「インテリジェンス」:「(1)知能、理解力、思考力 (2)情報、知識、諜報機関」(ジーニアス英和辞典)

 こうしたことから解釈すると、「情報」には「しらせ=Information」レベルで終わるものと、「Intelligence=インテリジェンス」のように、人や組織が自身の知能や思考力、理解力を併せ加えることで獲得する高いレベルのものがある、と定義できる(インテリジェンスには、それを獲得する能力という解釈も別にあるが)。余談だが、インフォメーションとインテリジェンスの日本語訳が、より明快で端的な別の単語と訳されていたら、日本の“情報化”も、もう少し奥深い議論が行われていたのではないだろうか。

 以上のように、データ、インフォメーション、インテリジェンスは、それぞれ明確に異なったものとして定義されているが、本記事で筆者はそれらを代表させて便宜的に「情報」と記述する場合が多い。さらに、「情報」に関連する下記の語も補足しておきたい。

「知識=ナレッジ」:「知られている内容。認識によって得られた成果」(広辞苑)

「知見」:「知ることと見ること。見て知ること。その結果得られた知識。見識」(広辞苑)

「ノウハウ」:経験によって裏付けされた知識や知見(知識・知見のなかで経験をもって裏打ちされた、専門領域的な知識・知見)

 “データ”を“情報=Information”にすることは人間の意図で可能であり、コンピュータで処理能力を補ってさらにスマートにできる。しかしそれを、人間にとってそれ以上の価値のあるインテリジェンスや知見、知識、ノウハウにしていけるのは、人間しかありえない。

 「これからのPLM」においては、従来のように製品定義情報という堅いデータや情報を中心に考えるのでなく、アイデア段階からそれを一定の定義情報に収斂させていく過程や、商品が市場で使われて生涯を終えるまでの過程(ライフサイクル)で生まれるさまざまな疑問を、プロセスとともに整理することも本来重要なことだと思っている。さまざまな疑問とは、たとえばデータ⇒インフォメーション⇒インテリジェンス⇒知識⇒知見⇒ノウハウなど、柔らかいデータや情報が、どう生成・活用・収斂されていくか、どのプロセスのためにどんなデータや情報が修正・付加・削除されていくのか、共有したい情報がどうして属人化してしまうのか、貴重な情報がなぜ捨てられてしまう(再活用されない)のかなどの疑問である。

 さらに、“もの・ことづくり”において、顧客や市場に“経験=Experience”を提供することで人間が感じるさまざまなこと、即ち“評判”や“満足感”“優越感”“価値観”も、PLMが扱うべき新しく重要な“情報”であると考えている。ちなみに、PLMの世界に2008年頃からいち早く“Experience”を提案してきたベンダーとして仏Dassualt Systemes社が挙げられるが、そのコンセプトの基になっているエクスペリエンス・エコノミーの考え方を理解して、”もの・ことづくり”に活用する企業が増えて欲しいと期待している。

 “インテリジェンス”については、筆者には特別の思いがある。前職時代、ECOM(電子商取引推進協議会)のプロダクトデータ委員会の委員を拝命していた頃の報告資料中の拙文(*1)を一読いただけると幸甚である。12年ほど前の思いとしてはPDMでは物足りず、これを超えるもの(超PDM)が必要であり、設計者の知的情報の共有化・インテリジェンス活用が図れるプロセス・プラットフォームを作りたい、という内容であった。現在では、ものづくり企業のPDMに対するニーズのレベルが高まっており、しかも昨今のICT(情報通信技術)を使えば、当時は難しかった知的情報の活用が実現できると確信している。

 次回は、今回の続きとしてシステム選択の方法(業務要件とシステム要件の、機能マッチングと非機能マッチング)について述べる。

(*1)参考資料:電子商取引推進協議会 プロダクトデータ委員会(平成14年3月) 「産業におけるプロダクトデータ活用の取組みと将来像」(「PDMから超PDMへ」pp.21-27)