すべてのモノの中に神を見いだす精神性

 例えば、大企業でなくてもモノを製造し、世界に向けて販売しやすい時代になりました。工場や多くの人材を有しているといった企業規模の大きさだけでは、ビジネスの優劣が決まらなくなりました。階層型の大組織よりもむしろ、個人ベースのフラットな組織(組織と言えればですが)が創出する商品に魅力を感じることが多くなりつつあります。

 働き方の価値観も大きく変化しています。大手企業を辞した優秀な人材がNPOを立ち上げる。この動きは、日本でも珍しいことではなくなりました。NPOは今や大きな挑戦ができる「ビジネス」だからです。米国の有名大学やビジネス・スクールの卒業生で最も人気のある就職先の上位には、NPOの名前が並ぶと言います。社会性の高いチャレンジを選び、かつ食べることには困らない。そういう働き方のほうが、収入が多くともノルマをこなさなければならない仕事よりも「断然やりがいがあり、かっこいい」と思われているのです。

 同じことは日本でも、少しずつ広がっていくでしょう。就職希望企業ランキングでは大手企業の社名が並びますが、ある調査では「社会に貢献できる仕事がしたい」という比率が半数を超えています。

 槌屋氏は、これまでのベンチャー企業の成功物語にあるような一人のヒーロー(イノベーター)が、社会を変革していく時代は大きく変わっていくと指摘しています。チェンジメーカーの数が増え、一人ひとりのできることは小さくても、その総量が社会を変えていく。「ソーシャル・メディア」的、「集合知」的な取り組みによる社会変革が、これからの姿だというわけです。

 もちろん、ヒーローの登場を否定するわけではありません。それは結果であって、そのプロセスには誰もがチェンジメーカーになれる環境が整備されていなければならない。そうしないと、社会を変えていくスピードが時代の動きに追い付いていかないということでしょう。

 企業人が多いという特徴の他にも、HUB Tokyoは日本ならではのもう一つの特徴が生まれてくるのではないかと、片口氏は期待しています。

 「日本のものづくりというのも、特徴の一つではないかと思います。すべてのモノの中に神を見いだす精神性は、これまでの大量生産・大量消費とは異なる形の新しいビジネスを生み出す可能性を感じます」(同氏)。

 HUB Tokyoのことを知りたくて創立者の二人に質問をしながら、企業人の働き方や、日本企業の抱える問題点に思考が飛んでいってしまいました。ここは一つ、HUB Tokyoの場を使って何か新しいことを、企ててみたいと思った次第です。その際には、ぜひ読者諸氏もかなりあ社中と一緒にチェンジメーカーに挑戦してみましょう。

 大企業で安穏としがちな私のようなサラリーマンにとっては、本当に刺激的な言葉が多く、消化しきれないほどの気づきを得られました。