今週も先週に引き続き、中国の近代史の教科書をご紹介させていただく。先週は中国の近代史のうち、1840年のアヘン戦争から1949年に人民解放軍が国民党軍との戦いに勝利するまでの部分をご紹介した。今週は中華人民共和国建国から朝鮮戦争までの部分をご紹介したい。

今回紹介する書籍
題名:義務教育課程標準実験教科書 中国歴史 8年級
編者:課程教材研究所 歴史家庭教材研究開発中心
出版社:人民教育出版社
出版時期:2006年(第2版)

 では、まず下巻の目次より。

第1単元 中華人民共和国の成立と地固め
第2単元 社会主義の道を模索
第3単元 中国独自の社会主義を打ち立てる
第4単元 民族団結と祖国統一
第5単元 国防の確立と外交の成果
第6単元 科学技術教育と文化
第7単元 社会生活

 全体的に上巻に比べて国の内部に注目した内容になっている。それに伴い、チベット問題、台湾問題などに関して中国共産党の見方を示した部分が増えている。以下に第1単元第1課「中国人民は立ち上がった」の中に収められた「チベットの平和的解放」をご紹介する。

 チベットは古来中国の領土である。人民解放軍は西南部の各省を解放したのち、そのままチベットに進軍し、チベットの平和的解放を勝ち取った。中央人民政府は何度もチベットの地方政府に対し、代表を北京に派遣して話し合いの場を持つように要請した。1951年チベット地方政府はアペイ・アワンジンメイを首席代表とする代表団を北京に送り中央人民政府と話し合い、チベットの平和的解放の協議を成立させた。こうしてチベットは解放を勝ち取った。祖国は大陸において統一を成し遂げ、各民族の人民の大団結を実現したのだ。チベットの解放後、同年9月人民解放軍は先遣部隊をラサに駐留させ、チベットの地方政府及び市民から熱烈な歓迎を受けた。

 本書ではチベット、ウイグルでの独立運動の存在などには触れておらず、また香港、台湾をまとめて「一国二制度」と紹介している。中国の公式な立場を表すものなので当然だが、ここも日本人にとっては少し違和感を持つ部分かもしれない。

 また、歴史的事実の扱いで日本と大きく異なるのは朝鮮戦争(1950~1953年)に関する部分である。本書では第1単元第2課で朝鮮戦争を扱っており、この部分ではアメリカとの対立を明らかにしている。以下に冒頭部分を引用する。

アメリカに対抗し朝鮮を援助し国を守る
1950年6月、朝鮮戦争が勃発した。アメリカは横暴にも派兵し朝鮮を侵略した。アメリカ軍を中心としたいわゆる「国連軍」は38度線を越えて中国との国境である鴨緑江付近まで攻め込み、米軍機が中国の領空へと侵入し、中国東北部の国境の都市までも爆撃した。米国第7艦隊は中国と台湾の海峡に侵入し、人民解放軍が台湾を解放するのを阻止した。米国の侵略活動は中国の安全を大いに脅かした。

 また、本書該当部分では中国の志願兵の黄継光、邱少雲などの個人を朝鮮戦争における英雄として挙げている。本書全般に言えることだが、全体的な流れよりもむしろ個人のエピソードなどを巧みに取り入れ、中学生にも興味を持ちやすいように工夫している。本コラムでもたびたび「中国人の英雄好き」は指摘してきたが、教科書の構成にもその傾向は見て取れる。

2週にわたって中国近現代史の教科書の記述を見てきたが、この時点までの記述から分かることは、この教科書を通じて中学生に「中国は不当に虐げられてきたこと」「中国共産党統治の正当性」「中国の主張する領土の範囲」を知らしめようとしていることだ。ちなみに尖閣諸島については特に記述はない。ゆえに、少なくとも本教科書からは「学校で尖閣は中国のものだと教え込んでいるから暴動が起こった」といえるような事実は見えてきていない。

 次週は、改革開放後の中国に関する記述の部分の紹介及び全体のまとめを試みる。