何でそんなにかかるんや
おとそ気分も抜け,仕事が軌道に乗り始めたある日,名本は先行開発の進行状況や今後の日程などを報告すべく,四角の下を訪ねた。これまで名本らが続けてきた開発の状況を事業部長に対して直に説明する初めての機会だった。
「というわけで『メカ』部分の開発を考慮しても,今年の10月くらいには量産できるはずです」
名本は既に,前年の11月にDVDプレーヤの開発陣に対して同様のプレゼンテーションを披露し,好評を博している。それとほぼ同じ内容を得意満面で四角に伝えた。
「10月?」
それまで黙ってうなずいていた四角の眉間に影がよぎった。あれよという間に四角の表情が変わっていく。
――まずい。
名本がそう感じた瞬間,彼の頭上でやはり雷鳴が轟いた。
「な,何で10月なんや!」
――あぁ,地雷を踏んでもうた。
四角は名本の目をじっと見つめながら続ける。
「何でそんなかかんねん。10カ月とか,1年とか,かかるもんやないやろ」
「はぁ」
「半年でやらんかい。半年で」
「はぁ」
――そんなことゆうても。できんもんはできんし…。
そう思いながらも,そのとき名本にできることは,ひたすら小さくなって嵐が過ぎ去るのを待つことだけだった。