突然の知らせ

 四角が出張先のシンガポールから帰阪したのは週末のことだった。自宅に到着し,ほっと一息。だが旅の疲れを癒やしている暇はなかった。月曜日からは据置型DVDプレーヤの量産を抜かりなく進め,世界初の感動を万全の体制をもって迎えなければならない。そのためにも,今日は早く寝よう。そう思った矢先に,事件は起きた。

 「トゥル」。電話のベルが鳴る。

 「トゥルルル」。もう一度。

 妙な感覚が四角を襲う。去来するのは胸騒ぎ。

「はい,四角ですが」

「あ,四角さんですか。谷口なんですけど…」

 受話器の先から聞こえてきたのは,光ディスク事業部のDVD技術部 部長として,据置型DVDプレーヤの開発現場を指揮する谷口宏の声だった。

「おぉ,谷口か。どないした」

「実は,えらいことになりましてん。『バグ』なんですけど。これはちょっと致命的ですわ」

「はあ? どんな『バグ』や」

 ――胸騒ぎの原因はこれか。

「あのぅ,映像が止まってまうんですわ」

 映像の再生中にDVDプレーヤが「フリーズ」して,映像が止まる。

「またか…」

 四角は天を仰いだ。