トップはどんな人だ?

「今度来はる事業部長なんやけど,どんな人や?」

「名前は知ってんねんけどなぁ…」

「また,いろんなことをイチから説明せなあかんで」

「そら難儀やな」

「ああ,面倒なことや」

 事業部長として光ディスク事業部に赴任する人物。それが四角だった。

 既に,彼が携帯型CDプレーヤ「CDer」の開発を終えてから,10年の歳月が流れていた。四角は携帯型CDプレーヤの開発に携わった後,レーザーディスク・プレーヤの開発を手掛ける。その後,コンピュータ向けの光磁気ディスク装置や,松下電器が開発した相変化光ディスク装置「PD」などの開発を担当するディスクシステム部で部長を務めていた。

 実は,光ディスク事業部が発足した当時,DVDプレーヤの開発部隊で四角をよく知る人物はそれほど多くなかった。なかには元上司として四角を知る人間もいた。しかし,DVD事業推進室の元メンバーにとって,四角はあまりなじみの深い人物ではなかったのだという。もちろん,携帯型CDプレーヤ開発の逸話など知る由もない。

 以前から四角を知っていた数少ない人物の1人が倉橋である。彼は当時の感想を笑いながらこう話す。

「四角さんが来ると聞いて『厳しい人と一緒になったな』と思いましたよ。四角さんとは,コンピュータ向けの光ディスク装置の開発で一緒でしたからね。僕はあまり言うことを聞かん方やから,ものすごく怒られたのを覚えてます」

(文中敬称略)