開発にゴーサイン
「決まりましたな」
「ようやくや」
「そうとなれば,早よせなあかんで」
「そやな」
「忙しなりますわ」
DVD規格統一の報を聞き,松下電器のDVD事業推進室は沸きに沸いていた。DVDの技術開発や規格策定,製品コンセプトの試作などを担当するのがこの部署の役割である。SD規格の発表とほぼ時を同じくして発足したこの部署には,光ディスク関連の研究者約40人が同社の各研究所から集結し,規格争いと並行してDVDプレーヤ事業を立ち上げる算段を整えていた。
谷口宏と倉橋章は,DVD事業推進室が進めていたDVDプレーヤの技術開発で中心的な役割を果たしていた。彼らにとって規格統一は,DVDプレーヤの製品化にゴーサインが出たも同じこと。それに加えて,自らが属する陣営の提案技術にほぼ基づく形で開発を始められるというおまけも付いた。「次世代のデジタルAV機器は,我々が先鞭をつける」。こうした熱気がプロジェクト全体を包み込んでいた。
規格統一の発表から半月後の1995年10月,松下電器は「光ディスク事業部」を発足させる。DVDプレーヤの製品化だけでなく,コンピュータ用の光ディスク装置も含めた同社の光ディスク装置関連事業を一手に引き受ける部門である。DVD事業推進室はこの事業部に吸収され,谷口は同事業部のDVD技術部 部長として,倉橋は同設計1課 課長として多くの部下を抱えながらDVDプレーヤの開発にまい進することになった。
この光ディスク事業部の立ち上げと同時に,DVDプレーヤの開発現場に,「あの男」がやって来た。携帯型CDプレーヤの開発で一敗地にまみれた男。そして半年間で「世界最小」の携帯型CDプレーヤを作り上げた男――。
「四角(よすみ)利和」その人である。