摩擦を恐れていては新しいものは生み出せない

 これまで述べてきた取り組みについて日産は、地域、機能、商品という3軸から徹底した議論と検証をして試行錯誤しながら取り組み、成果を出している。グローバル化の中、そこには多様な価値観が入り交じってお互いの利害が絡み、社内といえども「摩擦」が生まれる。新車をどこで生産するかも「グローバル社内入札」のような形で決めるほどだ。その「摩擦」を、Ghosn氏を中心とする役員陣のリーダーシップで解決して新たな「価値」を創出している。健全な「摩擦」と言えるだろう。

 ソニーの創業者である故盛田昭夫氏が26年前、著書『MADE IN JAPAN』の中でこんな指摘をしていた。「日本の企業が協調とか合意を強調するのはいいのだが、1つ間違うと、それは個性の排除につながりかねない。そういうことが起こるのを心配し、私は自分の考えをできるだけはっきり主張するように奨励している。たとえそれが他の人たちの考えと衝突するとしても、やむをえないことと考える。なぜならば、そのぶつかり合いの中からさらに良いもの、レベルの高いものが出てくるからである。日本の企業では、個性的な社員を好まないために、協調とコンセンサスという言葉でごまかす場合がよくある。私はよくこんな憎まれ口をきくことがある。コンセンサスばかり強調する役員や管理職は、社員の才能を引き出し、彼らのアイデアを統合する能力が自分にはないと公言しているも等しいのだ、と」

 盛田氏の言いたかったことは、「摩擦」を恐れていては、企業は何も新しいものを生み出せない、ということであろう。

 政府の金融緩和などの政策によって円安になれば、日本の製造業が他国の企業と競争する環境は整うかもしれない。しかし、あくまでも環境が整うだけであり、そこで果実を得るためには企業の自助努力が欠かせないのである。その自助努力が健全な「摩擦」を誘発して企業文化を変えていく。こうした点も、日産の再生から学ぶ教訓ではないだろうか。