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中国飲食サービス新時代の幕開け(4)

永井麻生子=おあしすランゲージラボラトリー代表
2013/01/28 00:00
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今回紹介する書籍
題名:海底捞你学得会
著者:楊鉄鋒
出版社:人民郵電出版社
出版時期:2011年8月

 今週は『海底捞你学得会』(海底撈から学べる)の最終回。中国の人気鍋料理チェーン店「海底撈」の成功の秘密を社員教育という点から見ていきたい。

 社員教育に関しては2011年9月に紹介した『海底捞你学不会』でも多く触れられていた。たとえばドアボーイから出世して役員になった例など「シンデレラドリーム」をたくさん生み出したのが海底撈の人事制度である。

 ただ、本書ではそのような夢物語を取り上げるのではなく、参考にできる点を多く取り上げている。ここが、本書著者が「学びきれない」と題した『海底捞你学不会』に反論するかのように『海底捞你学得会』(学べる)というタイトルを付けた由縁であろう。

 本書では、人事関係に第5章と第6章を割いており、それぞれの見出しが「職員の行動管理」「職員を感動させる」である。本書の紹介の第2回目で書いた通り海底撈ではそれぞれの支店の評価をする際に売上額ではなく利益率、顧客満足度、職員満足度を指標にしている。第6章での記述はまさにその職員満足度を上げるための仕組みが紹介されている。では、その職員を育てるために海底撈はどのような仕組みを用意しているのか。

 まず第1のポイントは「徒弟制」だ。師匠が弟子を教えるように一人一人丁寧に育て上げてから、独立(つまり、ほかの支店などに派遣する)させていくという方法で、量より質を重視して社員を育てている。このようにして着実に海底撈は地盤を広げてきた。そして、この徒弟制を支えているのが「同郷の強み」だ。海底撈では、管理職はもとより一般の職員も主に四川、陜西、雲南の三地方の出身者が中心だ。四川は海底撈を作り上げた張勇社長の故郷、陜西は海底撈が四川から外に進出した際の最初の拠点、そして雲南は土地柄も人柄も四川に似ているからだという。同郷者が多いことで職員間の意思疎通もうまくいき、信頼関係も生まれやすい。そのことが徒弟制を支え、チェーン展開しても一定のレベルのサービスを提供することができるのである。

 また、海底撈の採用時の基準はあまり厳しくない。本書では「よく働くこと。賢くなくてもしっかり教育する。身長や容姿、学歴などにも高い基準を設けない」と説明している。一生懸命やる人間なら採用し、教育するということを徹底することで社員の愛社心や忠誠心を育てているのである。

 また、海底撈のシステムで有名なものに「割り引き裁量権」がある。職員が自分の判断で価格を割り引いたり、無料で商品を提供したりすることができるというものだ。このシステムはうまく機能しなければ不正の温床になり、店にとって大きな打撃を与える。実際に、あるレストランで同じように末端の店員に裁量権を与えたところ、彼らが自分の知人や家族を呼び大幅に割り引きをして店に多くの損害を与えたという。そのような事態を防ぐために海底撈では割り引きした事後の管理監督を徹底している。後で細かく審査されることを知っていれば、不正を働く職員はなくなる。海底撈では職員を信頼する一方でこのように管理監督するシステムをきっちりと作り上げており、そのことが海底撈の質の高いサービスを生んでいるのである。

 と言って海底撈では職員を厳しく管理するだけではない。本書では大事なのはスタッフにプライドと競争心をもたせることだと指摘している。海底撈では、社員の愛社心を育てるために様々な工夫をしている。たとえば海底撈では出世のパターンは一律ではない(たとえば一般職か技術職かなど)。すべての職員が自分に合った出世パターンを取りうることで仕事へのモチベーションを高めることができる。

 また、海底撈では外部から幹部職員を招へいすることはしない。すべてたたき上げの幹部ばかりである。このことにより職員はまた自らにもチャンスがあると考え高いモチベーションをもって仕事にあたるようになるのである。

 以上、今月は大きく業績を伸ばしている海底撈火鍋チェーンの成功の秘密を分析した『海底捞你学得会』を紹介してきた。海底撈は一般的には珍しいサービスや無料でおまけをつけることで伸びてきたと言われているが、本書を見ていただけばそれだけが成長の理由ではなく、そこに至るまでの緻密に考えられた利益構造や店舗運営があっての成功だとわかるであろう。本書から中国の飲食業界のサービスがここまで進んでいるということを知っていただければ幸いである。

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日時:2015年9月2日(水)・3日(木)
いずれも10:00~18:00
会場:京王品川ビル セミナールーム(東京・品川)
主催:日経テクノロジーオンライン
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